🆕「 CHOOSE A」あとがき “2 融点 ”

彼女はよく嘘をついた。それが本心ではないという意味での嘘を。彼女はいつも人と接する時 に、まるで心を開かなかった。傷付くのが怖くて予防線を張り、それはまるで蚕の糸のように厚 い壁を作っていった。彼女に昔何があったかは知らないけれど、少年が彼女に心を寄せたのは、 どこか自分に似ていたからかもしれない。少年もよく嘘をついていたし、何よりこの世界に馴染 めないままでいたから。 自分のことは自分が一番知っているとは限らない(とフロイトが言っていた気がする)。だか ら、自分が作った壁が自分の体の一部になってしまう前に気づかなくちゃいけないのだ。SOSを 出すにもなかなか勇気がいるけど、大丈夫。それはお互い様ではないか。石のように硬くなった その壁も、もともとは細い糸なのだ。時間はかかるけど、きっと溶けていく。少しずつ、少しず つ。

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