🆕「 CHOOSE A」あとがき “3 都会 ”

この町には大きな交差点があって、信号が変わる度に渡る人の数は、かつて少年が過ごしてい た田舎のお祭りの時のようだった。交差点を渡る若者は皆、雑誌の中でしか見たことのないよう な格好をしている。しかし少し皮肉な言い方をすると、それは“#個性的”というハッシュタグのつ いた大多数でしかなかった。少なくとも少年にはそう見えた。そして、自分もその“one of
them ”になっていることに非常な虚無感を覚えた。まるで、都会という舞台でエキストラという 配役を与えられているようだった。それでも少年がこの町を好きでいられたのは、この舞台にど んなシナリオも結末も用意されていなかったからだろう。町人Aや村人Bが時として主人公にさえ なれるのが、いかにもノンフィクションの良いところだと少年は思った。そして、そんな風に 思っていると、これまで自分の後ろ袖を引張っていた言葉たちが喧騒の中に消え、また逆に、そ の中に埋もれかけていた自分の声が蘇ってくる不思議な感覚を覚えた。ビルの隙間から射す夕日 がまるでスポットライトのように、これから夜を迎える都会のエキストラたちを照らすのだっ た。

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