1/fって何すか。2016.10月号

<#31 30歳>

30歳。
ジョンレノンはイマジンを書き、ビルゲイツがWindowsを開発し、イチローは大リーグでシーズン最多安打を記録した。
私の30歳には何が起こるのだろう。

日本人の平均寿命が83歳なら、まだ半分も生きていない。
この先まだまだ長いからゆっくりいこうと、時々思ったりもするが、この考えが間違っている。明日死ぬかもしれない。
当たり前のように、しばらくは生きていけると考えているから、欲が出る。ちょっとした「無敵感」がそうさせている。
あれもこれも欲しがってしまい、そしてそれが遂には人の時間を奪ってしまうことにもなる。「自分の1分1秒に向き合っていれば、人殺しなんてやってる暇はなくなる。」と、某コピーライターが雑誌で言っていたが、ある意味ではそうかもしれない。

「無敵感」を最初に与えた一つに抗生物質をあげる。
ペニシリンの発明は生態系のヒエラルキーをひっくり返した。初めてペニシンが使われたのは1942年(それが戦時中と考えると皮肉ではあるが。)、人類700万年の歴史のなかで、人が細菌に「勝つ」ようになってからまだ100年も経っていない。したがって、それによる寿命の延長が与える影響はまだ分からない。
これが、人を良くするのか、狂わせるのか今はまだ分からない。
まあ、誰も良い悪いの判断をすることができない以上、時代が正解であり、それ以外は異端となるのだが。

テクノロジーは発展を続け、人はますます「無敵感」を得ていくだろう。私は学生の頃からこういう話をすると決まって友人たちは「でも、もしあなたの家族や恋人が病気になったら、あなただって必死に薬の研究をするわ」と言った。
私はそういう友人が、大嫌いだった。論点のすり替えである。
私が言いたいのはあくまで、“「無敵感」が生むリスク”についてである。ペニシリンを使うな、ワクチンをうつなとは一言も言っていない。

人は「無敵」じゃないのだ。
守れるものもあれば、守れないものもある。
守らなきゃいけない時もあれば、守ってもらわなきゃいけない時がある。その境界線を引くのは自分しかいない。

私の大好きなミュージシャンは29歳の冬に死んだ。
どうやら私は彼よりは長生きできるようである。
私の30歳に何がおこるのだろう。それをいま想像している。

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