1/fって何すか。2018.10月号

 <#55 傾聴力についての考察>

 「傾聴力」というのは、「何を言っているかを聴く」力ではなく、「何を言っていないかを聴き取る」力だと、とある心理学者の先生が言っていて、なるほどと思ってしまいました。例えば、ちょっと恐い上司の前だと、部下は自分の思いを伝えようとしても、気を遣い言葉を選び、どうしても心の奥側に隠してしまう部分があります。「傾聴力」とは、言葉にされたものを掴みとったうえで、その心の向こう側にあるものを、こちら側に手繰り寄せる力ではないかというのです。もしかすると、「行間を読む」とかそういう力も当てはまるのかもしれません。
 

 「平成最後の年」ということで、これからいよいよテレビやニュースでも「平成」を振り返る風潮がつよくなってくるんじゃないかなあと思います。今は当たり前にあるものでも、30年前には無かったものがたくさんあります。スマホもなければ、SNSもないし、音楽や映画との関わり方もまるで違います。
それらを振り返ったときに、「昔に比べると今は便利になったね」で終わってしまうと、ちょっと寂しい気がします。当時の世間や世相に対して傾聴力をもちながら、その声に耳を傾けると、“昔はあったけど、今はないもの”がたくさん見つかるかもしれません。
 

 温故知新、すなわち「古きを知って新しきを知る」という論語の一節がありますが、やはり昔を振り返るという作業はいつの時代も時々必要なことなのかもしれません。私は中学高校のときに歴史の授業が本当に苦手で、テストも赤点ばかりでしたが、今更になってちゃんと聞いておけば良かったなあなんて思います。
 このコラムを書いている今日という日は、我々が6月末から始めたツアーを終えて一週間ほど経った日なんですが、やはりバンド結成10周年を掲げてのツアーだったこともあり、いま思うとやけに懐古的なMCも多かったなあと思います。それもまた良しとしましょう。10年前の自分たちの声を聴いて、今また前を向こうとしているのだから。そしてこんな「平成最後の夏」を懐かしんで振り返る日も必ずやってきます。でもその日を姿を今はまだ誰も知りません。未来の声は誰にも聴こえないのだから。

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