1/fって何すか。2015.06月号

<#16 小学生の頃の話 -葉子ちゃん今何してる->

 小学校に入学したとき、私は目立たない方だったと思う。寧ろ、出来るだけ目立たないようにしていた。母には「もっと積極的に前に出なさい」とよく言われていたが、それは性分に合わず苦痛だった覚えがある。

 小学1年生の夏休みが明けた最初の授業で、「夏休みの思い出を絵に描く」という課題が与えられた。私の隣の席の「葉子ちゃん」は夏休み期間中に虫垂炎で手術を受けたらしく、入院していた病室の風景を絵に描いていた。小学生にとって体にメスを入れることはとてもセンセーショナルな事であり、手術を乗り越えて、見事に生還した葉子ちゃんはクラス中の注目を集め、彼女はいつもより誇らしげであった。しかし、それもわずかな期間であった。隣の席に座っていた私の絵がまずかったのだ。

 私は夏休みを母の妹が住むアメリカで過ごした。滞在中はあらゆる場所に連れて行ってもらった。シーワールドやユニバーサルスタジオ、グランドキャニオンにも行った。今思えば贅沢すぎる1ヶ月だが、そこで見た景色たちはその後の自分に大きく影響を与えたことは間違いない。そのことについては今回は置いといて絵の話に戻ろう。夏休みの思い出と題して課された絵に、私はユニバーサルスタジオで乗った「BACK TO THE FUTURE」のアトラクションの絵を描いた。スクリーンに映される映像に合わせ揺れ動くデロリアンの絵。当時はまだ日本にUSJもオープンしていなかったし、その絵はあっという間に話題になった。葉子ちゃんの病室の絵に集まっていた視線は、すぐにこちらに移っていった。

 幸いにも、葉子ちゃんはとても気丈な性格で(それは入院生活で得たのかもしれないが)、悔しがる素振りも見せず、他の子に混じって私のアメリカ談義に耳を傾けてくれた。それを良いことに、私は毎日のように自慢げにアメリカでの経験を話した。そして「村上くんは、少し他の子とは違う」という認識が見事に広まったし、それを意識してか、私自身も「他の子と違うこと」をしたがるようになった。

 それから20年の月日が経ち、私は東京で音楽をしている。人と違うことをしたがる性格は今でも変わらない。そして、(これは最近SNSで知ったのだが)葉子ちゃんは・・・ロンドンに暮らしていた!どうやら大きな病にもかからず健康に暮らしているようだ。私の何倍も広い景色を見ていることだろう。

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