1/fって何すか。2021.01月号



劇作家の寺山修二の代表作に「書を捨てよ、町へ出よう」という戯曲がある。
ちなみに私はこれを読んだことも観たこともない。昨年の自粛期間中に家で読書にふけっていたとき、ネットで注文して読んでみようかとも思ったが、これで感化されてタイトルの如く読書をやめ、町に繰り出すようになっては本末転倒。世間は「書で退屈をしのげ。町には出るな」の空気だったので。そうして注文のクリックを思い止まっていまに至る。

本の内容こそ知らないのに、これを新年一発目に語るのもどうかと思うが、大目に見てほしい。とにかく、私はこの「書を捨てよ、町へ出よう」というタイトルがとても好きなのだ。出不精のくせに。いや、出不精だからこそなのかもしれない。

昨年夏頃、自粛期間明けに久しぶりに会った友人には二種類いた。家に閉じこもるのが息苦しくて苦痛だったタイプと、引きこもることに後ろめたさを感じなくて良い日々を堪能したタイプ。(ちなみに私はどちらの気持ちも分かる。)

ただ、振り返ってみると、どちらのタイプにとっても新しい出会いというのは少なかったように思う。「はじめまして」を言う機会が少なかったような。しかも別れの数は減らないくせに。さよならも言えないまま。それが、書を捨てて町へ出るべき理由だと思う。

書の中にも、音楽や映画の中にも出会いはある。そしてありがたいことに別れはない。
ただ出会いと別れのどちらもがある場所に、それは渋谷だ新宿だとそういう意味の町ではなく、人間同士が物理的にぶつかる町という舞台に偶然の産物が転がっていて、それに翻弄されるところに、やはり人生は面白みがあると思う。

書を捨てるつもりはない。
ただ、話がしたい。

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