web版 1/fって何すか。2020.06.05

〈 # 77 140文字で語れないことについて、私の語ること 〉

どうやったら野球が上手くなりますか?と聞いた少年に、「遠回りこそが、一番の近道だよ」と答えたのは、誰もが知るスーパースター、イチロー選手です。

インターネットが巡り、スマホが普及し、SNSで繋がるこの世界では、何をするにも遠回りをする必要が少なくなった気がします。

知りたいことはすぐ調べられるし、言いたいことはすぐに言える。昔のSF漫画みたいにスタイリッシュな様には見えないけど、効率の良さは手塚治虫の想像を超えているかもしれません。

さて、コロナ関連のニュースが少しずつ減っても、残念ながら代わりに流れてくるニュースは陰惨なものや、モチベーションを削がれるものばかりです。
いや、いまでは陰惨なものを即ちニュースの呼ぶのかもしれません。ただ、それが、陰惨だと認識されることはとても健全であり、それはつまり、正しい世界の恒常性を保とうとする人間の姿の現れなのかもしれません。

したがって、これらのニュースを受けた人は、沸点を超えた水がブクブクと煮たった熱湯になり、ヤカンの蓋を鳴らすように、声をあげます。

かくいう私も、陰惨なニュースをみると、手は自然とスマホに伸び、指は勝手にSNSを開きます。
何かの新しいスイッチがもう完成してしまったんでしょう。

そして、自称ミュージシャンの端くれとしては、何かの意見やアティチュードを示したい衝動に駆られます。

ただ、私には、それを140文字に収める才能や技術が欠如しているらしいです。
つまり、スイッチはカチカチとなるのに、その先の配線が上手く仕上がってない状態です。

このことは、ずいぶん前から気づいていたので、私は違う配線を組み立てることにしています。

イチロー選手のいう、「遠回り」にあたるものです。

それは人の心を穏やかに、優しくするための、あるいは時に元気にしたり、消えかかった心をの灯火に油を注いだりする、そんな音楽だったり、詩だったり、あるいはこの長ったらしい時代に逆行したコラムだったり、ラジオだったり、絵だったり。

善は善を招き、悪は悪を煽る。そういうシンプルな考えのもと。

直接的な効果はあるかもしれないし、ないかもしれない。あったとしても確かめようがない。

ただ私はなんとなく、この「遠回り」な配線を気に入ってて、子供の自由研究のように日々いじくっているわけです。

私が好きなお笑い芸人の人は、こう言っていました。
「夫婦喧嘩をなくす方法を発見したら、ノーベル平和賞をもらえる、それが戦争をなくす方法になるから」と。

陰惨なニュースを受けると、私は、私自身の中にある醜い部分を見つめずにはいられません。私自身も、同じ形をした人間であり、私にもまた憎い人がいるし、意地悪な考えをもってしまうし。汚い言葉を吐きそうにもなる。長いものには巻かれてしまう。そこに居心地の良さを感じても気づかないふりをしてしまう。
ハッシュタグのマークまで打てても、その先をどうも打てないでいる理由の一つなのかもしれない。

私がノーベル平和賞にノミネートされる確率は、トランプ大統領がチャリティーコンサートを自費で主催するくらい少ないでしょうが、それでももうしばらくは、この遠回りを続けそうです。

あ、一つだけ自信をもって言えるハッシュタグがあったので最後に。

国境はなかった。


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