1/fって何すか。#92(2021.05月号)

# 92「山手線で起こった話」

今月26日フルアルバム「MOON」のリリースを前に、先月某日に事務所で雑誌の取材を受けた。アルバムについて存分に話をさせていただき、取材は終わり、帰途につく電車の中でそれは起こった。


渋谷駅から山手線内回りに乗り込む。その日はまだ緊急事態宣言が発令されていない平日の夜で、電車は帰宅する人で満員だった。私は、ドアの近くに立ってつり革を握り立っていた。私と向かい合う形で二人の高校生の男の子が喋っている。すると、その青年のうちの一人が、私の方をじっと見て、ハッとした顔をした。
 
(ん?もしかして私のこと知っているのかな?もしかしてテスラは泣かない。を知ってくれているのかな!?もしかしてファンと遭遇したパターン!!?…)とこちらも構えていると青年がついに話しかけてきた。
 
青年「あのー、すいません、もしかして…」
村上「はい、なんでしょうか?(完全にこれは、遭遇パターンだ!こんなことは滅多にない。丁寧に対応しよう。いやあ、嬉しいなあ。)」
 
青年「もしかして、西脇さんですか?」
村上「あ、違います。(誰やそれ。)」
 
完全に浮かれていた。
取材でアルバムをたくさん褒めていただいたことを引きずって、アーティスト気取りをぶちかましていた。恥ずかしい。今すぐこの電車降りたい。
 
青年から話を聞くと、どうやら“西脇さん”は青年の地元の先輩らしく、私と目元が似ていたらしい。しかも西脇さんは現在、東北に住んでいるはずだから、東京で会えたと思ってビックリして話しかけたらしい。国民全マスク着用時代の到来により、こういう事例は少なくないかもしれない。
 
村上「ちなみに西脇さんは何歳なの?」
青年「僕の6つ上だから、えーっと、24歳です」
村上「ふーん(まあ、悪い気はしないなあ。)」
 
若く見られた喜びと、自意識過剰だった反省を胸に、私は本来降りるべき駅の2つ前で電車を降りた。ホームから空を見上げると、雲の隙間から大きな満月が優しい光を放っていた。

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