1/fって何すか。2020.03月号

 <#72  二つの治療法>

 多くの病気の治療法には、二種類があります。一つは「対症療法」でもう一つは「根治療法」です。毎年冬に流行するインフルエンザを例にあげると、対症療法が解熱剤や咳止めの薬で、根治療法は抗ウイルス薬の内服です。解熱剤や咳止め薬は病気そのものを治す治療ではありません。薬が効いている間は体のキツさは和らぎますが、ウイルスは残ったままです。一方、抗ウイルス薬はウイルスを直接攻撃しますので、ウイルスの増殖のスピードに、その攻撃力が勝れば病気は治ります。しかし、抗ウイルス薬を飲まずとも元気になることもあります。それは「自然免疫力」のおかげです。元から自分の体に備わっている防御機構。これはよく「体力」といわれることもありますが、人それぞれ強さは違います。多くの風邪薬のCMで「風邪が治る!」とは言わずに「風邪に効く!」と宣伝しているのはこのような背景があります。このコラムは保健機関の広報活動ではないので、詳しいことは是非、教科書などで調べてみてください。
 

 さて、日常で起こる問題をこの二種類の治療法に置き換えて考えてみます。例えば、「大事なアクセサリーをなくしてしまった」という問題。対症療法は“別のアクセサリーをつけて出かける”とか、“似たアクセサリーを買う”とかでしょう。そして根治治療は、“部屋を片付けて探して見つけ出す”とか、“交番に届けて発見する”とかでしょう。無事、散らかった部屋を片付けている途中に、アクセサリーがソファーの下から発見できたとします。しかし、これにて一件落着のようにも見えますが、それではまた部屋が散らかってくるにつれて別の物をなくす可能性があります。つまり、そもそもの問題は「アクセサリーをなくした」ことではなく、「よく物をなくす」こと、あるいは「部屋のどこに置いたかが分からなくなる」ことだったのかもしれません。一見根治療法のように見える解決法が、実はその場しのぎの対症療法となっていたのです。このように、問題がなぜ起こってしまったかを考えていくと、普段の生活習慣や、自分の悪い癖にも気づきます。そして、そこにアプローチすることが本当の「根治治療」であり、最も重要な対策方法になります。それは「予防」です。
 

 インフルエンザを治すことではなく、インフルエンザにかかりにくい体を作ることが、長い目で見た場合の重要は根治策であり、予防なのかもしれません。そして、これらのことは日常生活だけではなく、世間や、さらに世界で起こる様々な問題に言えます。
 本当の問題は、目に見える問題の後ろ側にひっそりと隠れたままなのかもしれません。

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