🆕「CHOOSE A」あとがき “ 4 群像 ”

ある夏の平日のこと。テレビのワイドショーは日が昇る前に始まる。サラリーマンが家を出る 頃に二つ目の番組。町の飲食店が開店する頃に三つ目。昼食時に四つ目、五つ目、六つ目...。伝 えられる内容はほとんど同じなので覚えてしまった。どうやら、あるスポーツの世界大会で、い ま世間で人気の若手選手が準決勝で敗退してしまったそうだ。過去の大会のVTR、練習風景、怪 我からの復帰、敗退後のインタヴュー。そしてコーナーの最後に、アナウンサーはほとんど感情 のない声で短く伝えた。「ちなみに、決勝にはS選手が勝ち上がっています」。S選手もまた同じ 国の選手だった。 「平等」が無くとも保たれるバランスというものがあるし、バランスさえ保たれていれば「平 等」というものにはそれほど関心はもたれない。仕方のないことだ。 翌々日に開催された決勝戦でS選手が大敗したことはテレビには流れず、インターネットの小さ な記事で知った。記事には「また次の大会に向けて頑張ります」というありきたりなコメントが 載っていたが、写真に写るS選手の顔は清々しかった。少年はその記事に〈いいね〉を押した。小 さなハートマークが選手に届くことを想像しながら。

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