🆕「CHOOSE A 」あとがき “5 日情”

彼女の朝は少年からの電話で始まった。電話を切った後に彼女がもう一度眠りにつくことを少 年は知っていたが、もう一度かけ直すほどのお節介さはなかった。少年が彼女と別々の町で暮ら すようになってからしばらくして、電話が鳴った。気づいてはいたのだが、どうもすぐにでる気が せず、しばらく鳴り続ける電話を握りしめた。そして、それが彼女との最後の会話だった。... 少 年は酒に酔うとよくこの話をした。それを聞く周りの人間は「よくある話だ」と言って興味を持 たなかった。
記憶の引き出しがもっとシンプルで、忘れたいことは忘れて、思い出したいことだけ思い出せる システムだったら良いのにと思うことがある。しかし実際のところ、“よくある話”は意に反して大 事に保管されままで、時々、勝手に、その引き出しから顔を出してくる。そういうものなのだ。

しかし、もしそのシステムがその人をその人たらしめる為のものだと仮定したら、誰にでもよ くある話は、誰にとっても必要は話なのだろう。そして、その一つ一つはとても似通っているよ うに見えて、本当はオーダーメイドで仕立てたスーツのように、その人だけの物語なのかもしれな い

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