1/fって何すか。2016.11月号

<#32 恋ダンスがしたい>

“恋愛”についての歌が書けない。
歌詞を書き始めてかれこれ15年も経つのに、女性に対して恋焦がれる心情を描いた曲が一曲もない。
ドラムの實吉に「うちの母も時々テスラの曲を聴いてるらしいけど、“村上くんはなんで恋愛の歌は歌わないのかしらね?”と言っていましたよ」と言われ、これは痛いところを突かれてしまったと思った。私はそれを、自分が中高の六年間を男子校で過ごしたせいにしているが、それ以降は人並みに楽しい恋愛も、人には言えない辛い恋愛も経験したつもりだし、これは全くの言い訳である。

よし、次は恋愛の歌を書こう…そう思い立って、何冊かの恋愛小説を読み、恋愛映画を見た。しかし、歌詞を書くまでには至らない。私にはロマンチシズムというものが欠落しているのか…と落ち込んだりもした。

小説を読んでも映画を見ても書けないならば、実際に恋愛をするのが一番良いのだろうが、こればっかりはこちらの都合ではどうにもならない。

おそらく(極端な推論であるが)恋愛モノというのは、「これは私の想いを代弁してくれている!」とか、「これって今の私のこと言ってるじゃん!」という気持ちにさせるのかもしれない。(恋愛モノのファンの皆様、間違っていたら本当にごめんなさい、これは推論ですから。)そして、「恋愛」というジャンルは、ほとんどの人が経験しているから、それは多く人にヒットするのだろう。(推論ですからね、悪しからず。)

私は結局今まで、「生きる」とか「死ぬ」とか、「光と影」とか「人間っていうのは…」とか、そういことを歌ってきたし、これからもそうだろう。

私は結局、人間が生きていかなければいけないこの世界に「恋」をしているのかもしれない。

私はずっと、この世界に振り回されていて、それを解決する私なりの答えを言葉にしてきた。そしてその答えの中に、人間が生まれ持った「愛」の存在を信じている。人間同士が共有できる「希望」の力を信じている。

この恋はあまりにややこしすぎて、簡単には成就しないだろう。
いや、「ややこしいのはあなたの方よ」と世界は言うかもしれない。
しかしいつかは、ややこしい私なりの素敵なラブソングを書いてみたいと、今は思っている。



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