🆕「CHOOSE A」あとがき “エピローグ”

電気を発明し、車を走らせ、武器を作り、新しい薬を発見し、インターネットの網を敷き、世 界は物凄いスピードで変化を遂げる。それでも世界が何処に向かっているかを誰も知らないの は、どこにも向かっていないからかもしれない。いつだって宇宙の片隅から眺めれば、この星は 同じ場所を同じスピードでぐるぐると回り続けているように見える。少しだけ傾いたままバランス をとって、ずっと。何かを得る度に何かを失い、何かを失う度に何かを得る。何かが出来るよう になった時には出来なくなったことがあるし、何かが出来なくなったって代わりに出来るように なることがある。しかし、一つだけ確かに言えることは、この星も人類の歩みも、同じ場所をぐ るぐると回っているように見えて、本当は螺旋階段のように、前にいた場所とは少し違う場所にい るということだ。毎年咲く桜も、毎年降り積もる雪も、同じように見えて全くの別物であるのと 同じように。
少年はもう、とうの昔に少年と呼ばれる時代を通り越していたが、それでも少年は自ら少年で い続けることを決めていたのかもしれない。それは、この星が太陽の周りをぐるぐると回っていら れるように、少年もまた自分のある種の軌道を保つために、心の真ん中に少年を住まわせていた のだった。純粋で、繊細で、透き通った瞳を持った少年。自分が今大切に守らなければいけない ものは何だろう、この先に守っていかなければいけないものは何だろう、少年は迷う。たくさん あるけど、全部を抱きしめるにはまだまだこの手は小さすぎる。少年は顔をあげて、目の前に立 ちはだかるいくつかの扉の中から一つを選び、その向こう側へ足を踏み出した。答え合わせので きない正解(ANSWER)探しはいつまでも続いた。耳をすませば、心の真ん中から声がする。 「CHOOSE Aを繰り返せ。少しだけ傾いたまま、バランスをとって。」

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