🆕「CHOOSE A」あとがき “ 1 自由 ”

少年はたくさんの本を読んで、たくさんの詩を聴いた。歴史に名を残した偉人たちの言葉なら きっと、自分をより良い未来へと導いてくれると信じていた。無宗教だった少年はそうやって自 分の中に、オリジナルの聖書を作りあげようとした。そこにはフロイトやサルトル、アインシュタ イン、etcからの引用が記されていた。この一冊が完成すれば、もう道に迷うことはないと思って いた。しかし、それが完成することはなかったし、そのことに気づくには随分と時間がかかっ た。それが少年が“少年”のままであった理由である。
あらゆる人種がこの世界には住んでいて、その全てに共通していることが一つある。それは、 “人は裸で生まれてきて、何かを纏ってこの世界を去っていく”ということだ。誰が決めたことかは 知らないけど、そうなのだから仕方ない。時間は過ぎていき、夜がやってきて、また明けて歳を とっていく。勝手に。かのアインシュタインも結局はそれに抗う数式は見つけられなかった。そ のおかげで、人はこんなことを言える。「時間が解決してくれるさ」と。 しかし、本当にそうであろうかと疑問にも思う。だって、人は今まで何度も直面してきたでは ないか。自ら、能動的に、自分で自分の時間を進めなければいけない瞬間に。無限の選択肢か ら、あるいはとても限られた選択肢の中から、“一つを選ぶ(CHOOSE A)” 瞬間に。間違いもあっ たし、正しいこともあった。そしてその繰り返しの先こそが“今”なのだ。時には一人きりで、時に は仲間と議論を交わし、選んできた未来の連続だったはずだ。
少年は聖書を閉じた。目の前にある自分の両手はとても小さく見えた。文明がどんなに進んで も、人が両手に離さずに持っていけるものの量は大して変わっていない気がした。そして少年は次 の扉に手をかけた。 そこに広がっていた世界はまるで砂漠のように果てしなく、遥か先の地平線 が孤独を煽った。それでも少年は口元に微笑みを浮かべ、胸を高鳴らせて言った。 「全人類共通ルールが変更されることはしばらくないだろう。だけど、僕らはその時間の器の中 に何を入れるかを選ぶことができるんだ。僕はそれを“自由”と呼ぶことにしたよ。」

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