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そもそもロシア(ソ連)でなぜ共産主義が受け入れられたのかエマニュエル・トッド先生に聞きに行こう

 ウクライナへロシアが侵攻して1年超、権威主義的大国ロシアの動向に目が離せない状況ですが、私にとってはロシアでなぜ共産主義が誕生、受け入れられたかが長年の疑問でした。
 家族人類学という視点から解き明かしたのが、フランスのエマニュアル・トッド先生です。氏はかつてソ連崩壊を予言し、近著「第3次世界大戦はもう始まっている」でロシアのウクライナ侵攻に鋭い分析も行っています。

まずエマニュエル・トッドは
・家族構造とイデオロギー(政治経済体制)は一致する
・近代以降の各社会のイデオロギーは「農村社会」の家族構造によって説明できるとしました。

 家族構造の一形態である「外婚制共同体家族」の分布図と世界の共産圏の地図は重なる
「外婚制共同体」とは、父親と息子たちが同居し、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等、いとこ婚は禁止もしくは少ない。
基本的価値観は権威と平等、集団的行動が得意。ロシア、東欧、ベトナム、中国に見られる

共産主義革命は、プロレタリアート(労働者階級)の主導によって成し遂げられると考えられてきたが、実はプロレタリアートを有する先進工業国では一度も起きない
いずれの共産主義革命も本格的に工業化する前の「外婚制共同体家族」の地域で起きている。

第3次世界大戦はもう始まっている

 また ロシア政府系メディアのRUSSIA BEYONDは「なぜロシア人は共産主義者になったか」についてロシアの歴史学者のアレクサンドル・プルイジコフ氏の以下の論を紹介している。

当時のロシアには2つのロシアがあった。一つは貴族、知識層、ブルジョワジーのロシアでヨーロッパ諸国と同じ。
二つ目は農民と労働者のまとまりで、ほとんど中世的暮らし。主な制度はコミュニティで農民は共同で土地を所有し、耕していた。私有財産はほとんど発達していなかった。

共産主義ボルシェビキが全てを没収して共有しようと提案した際、喜んで従ったのが二つ目のロシア。
「農民のロシアは長年ソ連を身ごもっていた」
ロシア人はマルクス思想に忠実だったのではなく、この背景ゆえに共産主義が勝利した。

なるほど、納得行きますね

だからトッドはイギリス・フランス・アメリカなどの核家族(結婚後は親から独立、個人主義、自由経済を好む)社会では共産主義は受け入れられないと。

 また家族構造の違いからくるロシアとウクライナの違いをこう述べています

スターリンは大ロシア(ロシア)では農業集団化をさほど苦労せず進められたが、小ロシア(ウクライナ中部)では思い通りいかず、これを強行する過程で抵抗する農民を皆殺しにすることになった(ホロモドールの惨劇 人為的大飢饉)
ピラミッド型のロシア人からすると、ウクライナ人は「自分勝手でアナーキー」と見え、行きすぎた個人主義には抵抗を覚える

第3次世界大戦はもう始まっている

共産主義を受け入れたロシア、そしてロシアとは全く違う家族制度を持ってきたウクライナとの関係、いずれも家族が成り立ってきた歴史、社会があってこその問題と教えてくれます

 ロシアのウクライナ侵略は言うまでもなく許されないものです。国の発展段階に差があるのはやむを得ないことですが、紛争、戦争を未然に防ぐには歴史だけでなく家族構造の違いにも世界の叡智に学ぶ姿勢が本当に大切だと改めて思います

ちなみにエマニュエル・トッドの著作は現代を理解する必読の書が数多くありますが、
ロシアメディアのRUSSIA BEYONDは政府系メディアですが文化的側面を中心に伝える面白い記事が沢山あります


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