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附属機関と私的諮問機関について

 最近、こんなニュースがありました。

 地方自治体の条例の原案を作成した懇談会が、条例に基づく附属機関ではなく、要綱(内規)に基づく設置であり、違法ではないかと指摘するものです。これについて考えたことを書いてみます。

 地方自治体は、施策や事業を進めるにあたって、条例や計画、方針を策定したり、事業者を決定する等を行うことがあります。こうした自治体の意志決定は、民意に基づく首長や議会によって行われるとはいえ、個別の施策において市民の意見を反映することも大切です。また、特に専門的なテーマを扱うときには、自治体の一般職の職員だけでは専門性の確保が難しいこともあります。こうしたことを踏まえて、市民・学識経験者等で構成される組織として設置されるのが附属機関です。また、委員に対しては特別職の職員として報酬が支払われます。地方自治法の規定を確認してみると、「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。」(第138条の4第3項)とされています。

 一方、私的諮問機関というのは、特に法的な根拠はありません。一般的には、附属機関に類似した組織で、市政に対する市民の意見の反映や、専門知識の導入等を図る等の目的のための組織といわれています。こちらは要綱(内規)で設置されることが多く、条例に基づかない、つまり議会の議決を必要とせず、首長の判断のみで設置することができます。最も、曲がりなりにも首長が決定するのに、「私的」という用語はそぐわないのかもしれませんが。また、委員に対しては協力に対して謝礼である報償が支払われます。

 整理すると、
  附属機関は、条例設置、報酬
  私的諮問機関は、要綱設置、報償と
なります。

 記事にあるとおり、附属機関で審議すべき事項を要綱設置の私的諮問機関で審議し、報償を支払ったことを違法とする判例が出ています。そのため、「附属機関で審議すべき事項」が問題となります。附属機関の要件については、例えばこちらで検討がなされています。

 今回、まず気になったのは、なぜ条例の原案を私的諮問機関で対応しようとしたのかということです。最高裁の判例は出ていませんし、学説も分かれているようではあります。しかし、私的諮問機関で条例の原案を検討することは違法であるとの判決がたびたび出されていることを踏まえると、法的リスクを回避する観点はなかったのかなと思いました。

 もう一つ考えたのは、条例を制定するプロセスです。もちろん条例は、議会の議決で制定されます。しかし、条例の原案を作成する組織(普通は附属機関ですが)は、条例の策定に当たって大きな影響力を持っています。そう考えると、その組織のメンバーの選定や議論の進め方といったプロセスが、条例の内容に大きな意味を持ちます。こういう自治体の中の例規、政策の形成プロセスについては関心を持っていきたいと考えています。そして、そのプロセスに適正さが求められることは言うまでもありません。

 以上、とりとめも無い感想でした。

 参考文献:宇賀克也『地方自治法概説(第7版)』(有斐閣)、塩浜克也『スッキリわかる!地方自治法のきほん』(学陽書房)

 ※本記事は個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。


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