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私だけのオムライス

土曜日の病院は混む。
開院前から行列はできる。
11番目ということで一体どれくらい待つのか。
血液検査の結果をきくだけなので5分もかからず終わるだろう。
2、3時間待って乗るの2分みたいな、どこかのアトラクションのようだ。
で、時間ができたので何か書いてみようかと写真のライブラリを開いたらオムライスの画像がでてきたので、この話でも書き残しておこう。

去年の春先、突然派遣を切られた。
いや、ひと月前に言ってくれたからまだましか。
コロナ禍とは関係なく、ただ会社の整理整頓にあったようだ。
そうか私はいらない人間か…とべっこしへこんでいたが、一緒に働いていた仲間(と、私はいう!)は惜しんでくれた。
自己否定と自己肯定が行ったり来たりしていた春。
次の派遣先がなかなかみつからず、就職活動もうまくいかない(これはちょっとコロナ禍ということにしておく)。
ただただ毎日が過ぎていき、時々家で仕事をしたりしながらなんとか生活をしていた。
色んなものを乗り越えたり飲み込まれたりしながら(この辺も時間があれば書きたいかも…)、10月に仕事が決まった。
今度の仕事は夜勤もあるらしい…。
若干の不安を覚えながらも勤め始めた。
なかなかに大変で(これも書けたら書きたい…)、一日一日を過ごすだけで必死な日々が続いていた。
今も続いているが、一旦置いておこう。

そんな時、免許の更新ハガキがやってきた。
そうかそんな時期か…。
いつ行こう。
と、シフトを見たらこの先夜勤が一時続く。
じゃあ夜勤明けに朝一で行くか…と仕事終わりに警察署に向かった。
入口では整理券が配られていて、1時間半くらい待たなければならないらしい。
周りをよく見ると、ぼんやりたっている人、スマホとにらめっこしている人が一定の間隔をあけてたくさんいた。
喫茶店行くか…と近所の喫茶店に足を運んだ。
昔からある街の喫茶という感じだ。
一度来たことがあり、とても雰囲気がよかったので再訪したのだ。
そういえば夜勤明けでお腹すいたし、コーヒーとモーニングじゃ免許の更新中にお腹鳴りそうだな…と、メインメニューを見る。
喫茶店といえばナポリタンかオムライスをまず食べたい私。
以前ナポリタンを食べておいしかったので、オムライスを頼んでみよう!と、マスターに声をかける。

「朝からそんなに食べる??」

と驚かれた時間は午前8時過ぎ。
「あ、夜勤明けなもので…」
と答えるとマスターは一変。
「じゃあ腹ぺこかぁ!材料見てくるね!」
と、冷蔵庫と相談してくれて、なんとかオムライスを作ってくれた。
「は〜いおまちどう!いつものうちのオムライスと違うけど…」
と差し出してくれたオムライス。

まぎれもなくオムライスだろう。
そしてめちゃくちゃおいしい。
「おいしいですぅ〜」
と、気持ちを率直に伝えたら
「空腹は最高のスパイスだからね!」
と笑って言ったが、それだけじゃないおいしさがこのひと皿にあった。
私のためだけに作られた、もう二度は食べられないオムライス。
これ以上ない多幸感…。
噛みしめながらもペロリと平らげ、免許の更新へ向かった。
満腹になったため、講習では眠気と戦うことにはなったが…。
近所にあれば確実に常連になりたいお店。
実際常連もたくさんいて、入ってくるなり
「いつもの」
とひと言。そして
「ごちそうさま」
とテーブルにコーヒー代を置く。
なんて素敵なやりとり!
そういう昔ながらの…みたいなのものに憧れる。
ハードボイルド小説の読みすぎか。
いやいや、忘れてはいけない、古き良き…というやつだろう。
私も古い人間だ。

土曜日の病院は混む。
これを書き終えてもまだ順番は来ない。
一度外に出て戻ろうか。
いや、もう少しといえばもう少しだ。
流れているヒーリング音楽に身を委ねてぼんやりすごそう。
そんな時間にも何か意味があったりなかったり…いや、あるだろうと思って。

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