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流行地域での重篤な発熱+結膜充血でラッサ熱を考慮する;病初期のリバビリン投与がおそらく有用

発熱と結膜炎を呈したシエラレオネ出身の28歳女性

現病歴

28歳の女性が、6日前からの発熱、脱力感、咽頭痛、胸骨後面の痛みでシエラレオネ東部の小さな田舎の病院を受診した。過去2日間、1日2回の緩い便があった。入院前日に地元のヘルスポストを受診し、アモキシシリンとamodiaquine [1940年代から使用されている4-amioquinalone, Chloroquineと類似の構造] を含む抗マラリア薬の投与を受けたが、容態は悪化した。診察の結果、軽度の咽頭炎を除いては特記すべきことはなかった。病院到着後、セフトリアキソンの静脈内投与が行われ、抗マラリア薬の投与は終了した。マラリアのスライドは陰性であった。治療は2日間継続されたが、悪化の一途をたどった。

入院後2日目に結膜炎を発症した。この段階で、彼女の状態は非常に悪く、自力で歩くことができない。咳と息苦しさも出現した。

身体所見

腋窩温38.2℃、血圧80/55mmHg、脈拍100bpm。胸部聴診では両側性の細かい捻髪音を聴取する。

各種検査所見

胸部レントゲン写真で両側のびまん性浸潤影を認める。血液生化学検査では軽度の腎機能障害とトランスアミナーゼの上昇(AST 514 U/L(<50 U/L)を認める。

クエスチョン

  1. 鑑別診断はなにか。

  2. どのような検査を行い、どのように治療するか?

ディスカッション

シエラレオネ出身の若い女性が、咽頭炎、結膜炎、胸部病変を伴う重度の熱性疾患に罹患している。広域抗菌薬と抗マラリア薬の治療にもかかわらず、状態が悪化した。

クエスチョン1の答え

アデノウイルス感染で結膜炎や咽頭炎を起こすことがあるが、通常は軽症である。また、麻疹は発熱、咳、鼻かぜ、顕著な結膜炎を呈する。肺炎を起こすこともあるが、その段階では発疹みられる可能性が高い。

Mycoplasma pneumoniae は咽頭炎や肺炎を起こすことがあるが、重症化することはほとんどない。その他の肺炎も考えられるが、通常、結膜炎を合併しない。

レプトスピラ症は、非特異的な発熱から始まることがある。喀血を含む肺病変は一般的で、腎障害を引き起こすこともある。重症のレプトスピラ症の患者は、結膜炎ではなく、結膜充血がみられる傾向がある。

腸チフスは非特異的な熱性疾患として発症する。腸チフスであればセフトリアキソンで改善すると考えるかもしれないが、腸チフスの臨床経過が長期化することはまれではない。咽頭炎や結膜炎は、通常、臨床像には含まれない。

ラッサ熱はシエラレオネ東部では非常に一般的で、ある研究では入院患者の16〜20%を占める。この患者の症状はすべてラッサ熱と一致している。

クエスチョン2の答え

ラッサ熱は重篤な疾患である。院内でアウトブレイク感染を起こし、多くの医療従事者が死亡している。したがって、すべての処置は慎重に行うべきであり、ラッサ熱の可能性がある場合は常に検査室に連絡する必要がある。すべての検体は密封されたプラスチック容器で輸送されるべきである。

ラッサ熱の診断には、血清検査とPCR検査があり、抗原に基づく迅速なポイントオブケア検査が認可されている。

PCR検査は最も感度の高い検査だが、ほとんどのアフリカ諸国では利用できない。抗原検査は疾患の存在を証明するが、発症日に検査した際の低レベルのウイルスは検出できないことがある。IgM 抗体検査は偽陽性率が高く、解釈が難しい場合がある。

ラッサ熱の検査結果が判明するまで、患者を隔離する必要がある。血液や体液に触れることで感染が広がるため、ウイルス性出血熱の診断が除外されるまでは、患者をケアする際にはゴーグル、マスク、二重手袋、使い捨ての(防水)ガウンの使用が推奨される。患者は別の部屋に隔離されるべきで、理想的には汚染された可能性のある衣類を取り除くなど汚染除去のためのエリアが外部にあるべきである。針や鋭利なものの取り扱いは、経験豊富なスタッフが注意深く行う。針刺し事故など、ラッサ熱患者の体液に職業的な曝露があった場合は、リバビリン内服による曝露後予防を検討する必要がある。

ラッサ熱の治療はリバビリンの静脈内投与であるが、高価であり、一般には入手できない。特に有症状の最初の6日間に投与すると生存率が向上するようだが、この知見に関する研究の質は低い。

症例の続き

抗原検査でラッサ熱と診断され、専門の隔離病棟でリバビリンの静注が行われた。残念ながら、この時点ですでに状態は悪化しており、2日後に死亡した。患者の家族、親しい友人、医療スタッフ全員に、患者との接触があったかどうか聞き取りを行った。接触者は全員、体温を測定し、接触から21日以内に体調が悪くなった場合は医療機関を受診するようアドバイスされた。

SUMMARY BOX

ラッサ熱

ラッサ熱は、アレナウィルスに感染することで起こる重篤な全身疾患である。Mastomys属のネズミの人獣共通感染症であり、ヒトへの感染は感染したネズミの尿に接触することで起こると考えられている。ラッサ熱はリベリア、シエラレオネ、ガーナ、ナイジェリアでよく見られるが、おそらくサハラ以南の西アフリカのもっと広い地域で発生している(図74.1)。

図74.1 Old World arenaviruses の流行地域。出血熱の原因となることが知られている2種類のアレナウイルス、 Lassa および Lujo のみを示す。ラッサ熱の臨床例が確認されている国は緑色で示している。西アフリカの他の国々のほとんどは、逸話的な報告や血清有病率データなどの間接的な証拠が存在し、赤で示されている。ルホウイルスの常在国を青色で示す。発症率や発症リスクは国によって大きく異なる可能性がある。(Farrar, J., Hotez, P., Junghanss, T., et al., 2013より引用。マンソンの熱帯病. において。Farrar, J. (Ed.) 23rd ed. Elsevier, London. 図16.2. Pp. 177)

マリ、コートジボワール、トーゴといった国々からヨーロッパに感染したケースもある。年間30万人の患者が発生し、5000人が死亡していると推定されるが、この推定値の信頼区間は非常に広いと思われる。

ほとんどの症例は軽症と考えられ、医療施設を受診しないこともある。しかし、入院患者の場合、致死率は20%にも上る。ラッサ熱は妊娠中の女性でより重篤となり、妊娠第3期では致死率が高くなる。早産や自然流産を引き起こすことが多く、ラッサ熱に感染した女性の胎児の約90%が死亡する。

潜伏期間は3〜21日で、妊娠していない人の場合、通常、発熱、体の痛み、衰弱で徐々に発症する。咽頭痛や胸痛のほか、腹痛、下痢、嘔吐などの漠然とした腹部症状もよくみられる。咳や息苦しさを訴える患者もいる。結膜炎が特に病期の後半によく見られる。顕性の出血はまれである。トランスアミナーゼの上昇は重症度の指標であり、高い致死率と関連がある。

ラッサ熱の診断には、血清検査とPCR検査があり、抗原に基づく迅速なポイントオブケア検査が認可されているが、異なる株に対する感度についてさらなる検査が必要である。

ラッサ熱はコモンであるため、過去21日以内に流行地域を訪れた原因不明の発熱症状患者では、ラッサ熱を考慮し、適切な感染予防策を実施する必要がある。都市部よりも農村部の出身者に多くみられるが、都市部でも発生しうる。リバビリン静注による治療は、発症初期に行うのが効果的と思われるが、診断が遅れた患者でも検討されるべきある。

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