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色素減少性の感覚が鈍い皮疹+末梢神経肥厚でleprosyを疑う。診断的検査はSlit skin smearだがTTでは菌が陰性の場合が多い

右上肢に青白い斑点があるインド出身の18歳男性

現病歴

インド在住の18歳男性。3ヶ月前から右上腕と前腕に青白い斑点があることに気がついた。かゆみや痛みはないが、皮疹部の感覚が鈍くなっているとのことである。また、右手小指の軽いしびれを訴えているが、脱力感はない(右利き)。それ以外は健康状態に問題はない。皮膚疾患の家族歴はない。

身体所見

右腕外側に 20cm × 10cm の色素減少した皮疹があり、前腕まで及んでいる(図 83.1)。

図83.1 18歳インド人男性の右腕に生じた知覚鈍麻を伴う色素減少性斑状疹。

皮疹部の皮膚は乾燥している。色素減少部位の知覚は正常な皮膚に比べ鈍い。その他の皮膚所見は正常である。両尺骨神経は触知可能だが、右尺骨神経は肥厚している。右小指の先端と尺側縁の感覚が低下している。他に神経学的な異常はない。

クエスチョン

  1. 色素減少の原因となる一般的な皮膚疾患は何か?

  2. どのような検査が必要か?

ディスカッション

インド出身の18歳男性が、右腕の色素減少した斑状疹と知覚鈍麻を訴えている。色素減少した鈍い皮疹は、ハンセン病 [leprosy] の典型的な徴候であり、皮疹と神経障害の組み合わせをみたら、常にハンセン病を疑わなければならない。

クエスチョン1の答え

色素減少は非常に一般的である。皮膚炎や熱傷のような炎症性または外傷性の経過による非特異的な後遺症のことがよくある。色素減少の一般的な原因には、白色粃糠疹、癜風および脂漏性皮膚炎が含まれる。白斑は、色素減少ではなく、色素脱失を起こす。ハンセン病蔓延国では、色素減少の原因となる皮膚トラブルがあると、ハンセン病を懸念して患者が受信することがある。ハンセン病の啓発キャンペーンでは、しばしば青白い斑状疹を検査するよう勧めている。

クエスチョン2の答え

ハンセン病の2つの臨床的徴候(感覚低下のある色素減少性皮膚病変と神経の肥厚)があるため、追加の検査は必要ないが、皮膚生検と皮膚切片塗抹標本 [slit-skin smear]を実施することもできる。この場合、皮膚生検は皮膚神経の破壊を伴う肉芽腫性皮膚炎を示し、皮膚切片塗抹は陰性である可能性が高い。

症例の続き

患者は少菌型ハンセン病 [paucibacillary leprosy] と診断され、リファンピシンとダプソンを6ヶ月間服用した。感覚神経障害に対してはプレドニゾロン30mg/日の経口投与で治療し、毎月5mgずつ減量した。患者は、ハンセン病の原因と、家族や友人が検査を受けてもハンセン病の徴候がないことから感染性がないことについて幅広くカウンセリングを受け、手のケアと外傷を避ける方法をアドバイスされた。彼は完全に回復した。

SUMMARY BOX

ハンセン病

ハンセン病は、Mycobacterium leprae(およびMycobacterium lepromatosis)による皮膚および末梢神経を主病変とする疾患である。この菌は培養することができない。大多数は感染者に接触しても発症せず、様々な臨床症状は菌に対する免疫反応によって決定される。細胞性免疫の高い人では、単独または少数の色素減少性の鈍い斑状疹と末梢神経の肥厚を伴うTT型ハンセン病 [類結核型:tuberculoid type] またはBT型ハンセン病 [境界型:borderline tuberculoid]を発症する。このような人の皮膚生検や切開皮膚塗抹では、通常、菌は検出されない。M. lepraeに対して細胞媒介性反応を示さない者は、皮膚浸潤と多数の皮膚病変を伴うLL型ハンセン病 [らい腫型:lepromatous] を発症する。このような人は、皮膚や鼻の分泌物中に多くの菌を保有している。

世界保健機関は、多剤併用療法を行うため、皮膚病変の数によってハンセン病を分類している。少菌型ハンセン病(皮膚病変が5個以下)では6カ月、多菌型ハンセン病(6個以上)では12カ月の治療を行う(表83.1)。

2018年、WHOはすべてのハンセン病患者が3種類の薬剤による治療を受けることを推奨した。WHOのレジームは、リファンピシン600mg、クロファジミン300mg、ダプソン100mgを月1回、それ以外の日はダプソン100mgとクロファジミン50mgを毎日投与する(表83.2)。

これ以前は、少菌型ハンセン病患者は2剤(ダプソンとリファンピシン)を6ヶ月間投与されていた。多剤併用療法は、患者に無償で提供される。

また、最近(6ヵ月以内)発症した感覚・運動障害に対しては、多剤併用療法に加え、副腎皮質ホルモンを経口投与し、神経機能の改善を行っている。まれに、皮膚の変化を伴わない純粋な神経性ハンセン病が現れることがあり、診断をより困難にしている。

ハンセン病の診断は、すべての症例に対応する診断やスクリーニング検査がないため、臨床的な要素が強い。また、症状や臨床形態も非常に多様である。ハンセン病患者の大半は、slit-skin smearや皮膚生検で細菌を確認することができない。

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