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リーシュマニア・プロマスチゴートはヒトの網内皮系細胞に侵入し、脾腫やリンパ節腫脹を起こす。VLの診断にはrK39 ICTとDATがある

間欠的な発熱を来した南スーダンの7歳女児

現病歴

南スーダンのクリニックに、7歳の女児が4週間持続する発熱で受診した。主に午後に発熱がみられ、悪寒とときに痙攣を伴う。発熱と発熱の間は当初は元気で普通に遊んでいたが、次第に、食欲不振、空咳、胸痛、関節痛、背部痛がみられるようになった。
入院歴はないが、最近、他のクリニックに受診し、詳細不明の錠剤を内服したが、改善は見られなかった。

身体所見

意識清明、顔色不良だが黄疸はない。重度の栄養失調(Zスコア<3)である。バイタルサインは、体温39.6℃、脈拍96bpm、血圧100/60mmHgである。胸部聴診は明瞭、心音正常、腹部は軟らかく、左肋骨縁下4cmの脾腫がある。頸部、腋窩、鼠径部、上顎部に直径1cm程度のリンパ節腫脹を多数認める。皮膚病変はなく、末梢浮腫も認めない。

検査所見

患者の血液検査所見は表44.1に示すとおりである。マラリア原虫迅速診断法(RDT)およびマラリア原虫の血液フィルム検査は陰性。ブルセラ菌の血清検査(IgGとIgM)陰性。内臓リーシュマニア症:rK39-抗体RDT陰性。

クエスチョン

  1. 最も重要な鑑別診断は何か?

  2. この患者にどのようにアプローチするか?

ディスカッション

南スーダンで、4週間の経過で進行性の発熱、食欲不振、全身の痛み、乾いた咳で受診。顔色が悪く、重度の栄養失調が認められる。脾腫と全身のリンパ節腫脹がある。血算では汎血球減少を認める。マラリア、ブルセラ症、内臓リーシュマニア症に対する血清学的迅速診断検査は陰性であった。

クエスチョン1の答え

南スーダン出身の子供で、慢性的な発熱、脾腫、衰弱がみられれば、内臓リーシュマニア症かブルセラ症が疑われるはずである。結核とHIV感染は、慢性的な発熱、食欲不振、体重減少、脾腫、全身性のリンパ節腫脹を引き起こすので、どちらも除外する必要がある。

マラリアは発熱、貧血、脾腫を引き起こすことがあるが、2種類の検査で陰性であったことから、その可能性は低いと考えられる。また、マラリアでは慢性的な発熱は珍しく、小児ではもっと急性の経過をたどることが予想される。さらに、マラリアはリンパ節腫脹をきたさない。小児では高反応性マラリア脾腫症候群(Hyperreactive malarial splenomegaly syndrome: HMS)が報告されている。この症候群は、マラリアが流行する地域で脾腫と貧血を引き起こすが、HMSは発熱を伴わず、リンパ節腫脹も認めない。

腸チフスでは、持続的な発熱と脾腫がみられ、乾いた咳もよくみられる。ただしこの症例では発熱の期間がやや長すぎる印象であり、腸チフスでは一般的にリンパ節腫脹は認められない。

脾膿瘍は慢性的な発熱と脾腫を引き起こすが、急性敗血症でない限り、全身性リンパ節腫脹と血液検査異常汎血球減少を説明することはできない。

Schistosoma mansoni感染による慢性住血吸虫症は、門脈圧亢進症に伴う脾腫を引き起こすことがあるが、発熱はみられず、リンパ節腫脹も認めない。
白血病やリンパ腫のような悪性腫瘍は除外する必要がある。

クエスチョン2の答え

この少女は非常に状態が悪いので、入院させるべきである。鑑別診断は多岐にわたり、同じ患者が資源が豊富な環境で受診した場合、行うべき検査がたくさんある。

南スーダンのような資源に乏しい国では、慎重な臨床的アプローチが必要である。病歴は、診断名を絞り込むために、できる限り正確に記録されなければならない。患者が内臓リーシュマニア症(VL)が流行している地域の出身であるかどうかを確認する必要がある。HIV感染の可能性については、両親や兄弟姉妹が健在かどうかを確認することが非常に重要である。

臨床医は、国際的に推奨されている基準とは異なるかもしれないが、利用可能な検査に対処しなければならない。VL診断のゴールドスタンダードは、組織検体から寄生虫を証明することである。しかし、これは実臨床の現場では施行できないことが多く、代わりに血清学的検査が使用される。今回使用したVLの迅速抗原検査(rK39)は陰性あった(南スーダンでの検査感度は85〜90%)。

VLは鑑別診断の上位に位置するため、直接凝集試験(Direct Agglutination Test: DAT)のような2番目の血清学的検査を行い、寄生虫の直接証明を試みる必要がある。

感度は脾臓の穿刺検体が最も高く(93~99%)、次いで骨髄(53~86%)、リンパ節の穿刺検体(53~65%)で、培養とPCRによってさらに向上させることが可能である。脾臓の穿刺は約0.1%の確率で生命を脅かす出血を伴うため、厳重な予防措置、専門技術、術後のモニタリングが必要である。

血液培養が可能であれば、腸チフス、ブルセラ症、敗血症の診断に有用である。

ケースの続き
患者の母親からの話で、この家族が内臓リーシュマニア症が知られている地域の出身であることがわかり、患児の叔父が以前VLで治療を受けていたことが判明した。妹は最近結核の治療を受けていた。

児の健康状態は悪化の一途をたどっていた。高熱が続き、顔色はますます悪くなった。

DATは高力価(≥ 1:6.400)で陽性となり、内臓リーシュマニア症の疑いを支持するものだった。

重度の栄養失調と貧血の進行という危機的な状況を考慮し、この患者にはリポソーマルアンホテリシンBと広域抗菌薬(セフトリアキソン)の投与が開始された。また,高エネルギー・高タンパク質の治療食(ready-to-use therapeutic food: RUTF)とビタミン・ミネラルの補給で栄養補給を行った。
5日後、熱は下がり、患者は回復し始めた。2週間後、少女は少し体重が増え、再び歩いたり遊んだりできるようになった。

SUMMARY BOX

内臓リーシュマニア症(カラアザール)

VLは、リーシュマニア原虫(主にL. donovaniとL. infantum)によって引き起こされる媒介性の全身性寄生虫感染症である。東アフリカやインドで大規模な流行が報告されている。インドでの撲滅活動の結果、VLの発生率は過去10年間で大幅に減少している。全症例の90%は、わずか5カ国で発生している。すなわち、インド、スーダン、南スーダン、エチオピア、ブラジルの5カ国である。

感染経路にはzoonotic(動物からヒトへ感染する感染症)とanthroponotic(ヒトから動物に感染する感染症)があり、地域や寄生虫の系統によって異なる。ヒトは、感染したメスのサンドフライに刺されることでVLに感染するのが最も一般的だが、他の感染経路も報告されている。

リーシュマニア・プロマスチゴートはヒトの網内皮系細胞に侵入し、そこでアマスチゴートに変態して増殖する。潜伏期間は10日から数年と幅が広いが、通常2〜8カ月である。

臨床症状は、感染する菌種や宿主の遺伝的背景、免疫状態によって異なる。ほとんどの感染症は無症状のままである。

臨床的なVLは、慢性的な全身感染の症状(発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少)と、単核食細胞系への寄生体の侵入(リンパ節腫脹、脾腫、肝腫大)を示し、重度の免疫抑制が起こる。インドでは、色素沈着が見られることから、「カラアザール」(ヒンディー語で「black sickness, 黒い病気」の意)と呼ばれている。VLは治療されないと一般的に致死的であり、致死的な合併症として、細菌による重複感染、重度の貧血および出血によるうっ血性心不全などが挙げられる。

低資源環境では、VLの診断方法は限られていることが多い。血算では、3つの血球系すべてが低下する可能性がある。骨髄、脾臓、リンパ節の検体からリーシュマニア・アマスチゴートを検出することは、VL の古典的な確認試験である。現場環境では、寄生虫の直接証明はしばしば実行不可能であり、代わりにいくつかの血清学的検査が開発されている。これらの検査の感度や特異度は一般に様々で、WHOが提案する標準化された症例定義と常に組み合わせて使用する必要がある。

rK39イムノクロマトグラフィー検査(ICT)と直接凝集検査(DAT)が最も高い感度と特異度を持つことが分かっている。rK39 ICTは、簡便、迅速(10~20分)、安価であり、再現性のある結果が得られる。半定量的なDATは、検査所要時間が24時間で、かつ十分な訓練を受けた検査技師のいる検査室が必要である。

VLの治療は複雑で、個々の薬剤の有効性は地域によって異なり、寄生虫の感受性や患者の免疫状態にも左右される。現在使用されている非経口薬は、五価アンチモン、パロモマイシン、(リポソーマル)アンホテリシンBである(図44.1)。

図44.1 南スーダンの小児科病棟でリポソーマルアムホテリシンBの投与を受けている小児

経口薬としては、ミルテフォシンが使用されている。抗リーシュマニア薬の併用は、治療期間の短縮、副作用の軽減、治療成績の向上、耐性獲得を遅らせること、そして、治療費の削減に役立つと思われる。

HIV患者の場合、VLは古典的な抗リーシュマニア薬が効きにくく、再発傾向も高いため、治療がさらに困難となる。

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