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住血吸虫症の急性期には便に虫卵が見られないことがあるため臨床的に疑う場合は繰り返し検査を行う

モザンビークから帰国した43歳男性旅行者の発熱と好酸球増加の症例

現病歴

5月21日、43歳のドイツ人男性が発熱のため地元のトラベルクリニックを受診した。4月16日から4月30日までモザンビークに滞在した後、4月30日から5月17日までチリに渡航していた。モザンビークではマラリア化学予防薬を服用せず、発熱のためアトバコン/プログアニルでマラリアの自己治療を行ったと報告した(4月27日から4月29日)。3日前からの発熱が再出現し、来年前日には39.8℃の高熱があった。熱の他に頭痛と下痢がある。

Maputo近郊の小さな湖で淡水に暴露した。過去に特記すべき既往はない。

身体所見

体温39.2℃。その他の身体所見は正常で、皮疹、肝脾腫、リンパ節腫脹はない。

検査結果

入院時の検査結果は表 20.1 の通りである。

その他の結果

心電図は正常である。胸部X線撮影では、両側の肺底部周辺に2〜5mmの結節性病変を認め(図20.1)、この所見は胸部CTスキャンでも確認された。

図 20.1 胸部レントゲン写真では、両肺の末梢に結節性変化を認める。

クエスチョン

  1. 鑑別診断と追加の検査はなにか?

  2. 帰国者における好酸球増多の意義はなにか?

ディスカッション

モザンビークとチリへの5週間の旅行から帰国したばかりの43歳男性が3日間の高熱を訴え受診した。マラリアの予防薬は服用していなかったが、3週間前に発熱した際にマラリアの緊急治療を受けている。モザンビークで淡水との暴露あり。診察で発熱あり。血球分画で好酸球増多がみられ、総白血球数は正常である。肝酵素、LDH、CRPがわずかに上昇している。胸部X線写真とCTで両肺の末梢に小結節性変化を認める。

クエスチョン1の答え

この患者はマラリア予防薬を服用せずにモザンビークに渡航している。したがって、他の症状や検査結果に関係なく、まずマラリアを除外しなければならない。

帰国旅行者の発熱の鑑別診断には長い時間がかかるが、腸チフスやアメーバ肝膿瘍は一般的で生命を脅かす可能性のある疾患なので、常に除外しなければならない。そのため、血液培養と腹部超音波検査を行う必要がある。この患者とは対照的に、腸チフスは通常、好酸球減少を引き起こす。

熱帯地方からの帰国後の発熱では、正確な旅程、旅行中の活動、局所的な症状、徴候、検査結果を参考に疾患を鑑別する。

この患者は、肝酵素がわずかに上昇している。急性肝炎の鑑別診断には、E型肝炎を含むウイルス性肝炎が含まれる。

EBV や CMV の感染も、発熱、肝酵素の上昇、LDH の上昇を引き起こすことがある。これらは帰国旅行者における発熱の重要な原因となっている。しかし、EBVとCMVは好酸球増多でなく、異型リンパ球増多を引き起こす。脾腫は通常、単核球症やリンパ節腫脹の臨床像の一部であるが、急性CMV感染ではリンパ節腫脹がそれほど顕著でない場合もある。

レプトスピラ症、リケッチア症、Q熱は、ブルセラ症、二期梅毒、回帰熱と同様に考慮すべき細菌感染症である。しかし、これらの感染症は、この患者の著明な好酸球増多を説明できない。

クエスチョン2の答え

熱帯地方から帰国後の好酸球増多症では、蠕虫の感染 [helminth infection] を除外する必要がある。淡水での接触による好酸球増加と発熱を示すこの患者の鑑別診断は、片山症候群として知られる急性住血吸虫症が最も考慮される。発熱、好酸球増加、肝トランスアミナーゼ上昇のもう一つのまれな原因は、急性肝蛭症 [acute fascioliasis] である。

症例の続き

末梢血スメアでは マラリア原虫陰性であった。便と尿の住血吸虫卵の検鏡は3回とも陰性であった。

酵素免疫測定法および免疫蛍光測定法(IFA)を用いて抗住血吸虫抗体の測定を行ったが,いずれも陰性であった。

4週間後、抗住血吸虫抗体が陽性になった(IFA 1:1280、セルカリア・虫卵ELISA陽性)。便中にS. mansoniの卵が検出され、住血吸虫症の診断が確定した。患者はプラジカンテルで治療された。

SUMMARY BOX

急性住血吸虫症 (片山症候群)

急性住血吸虫症(片山症候群)は、発育中の虫体上の新たに発現した抗原によって引き起こされる急性の過敏性反応である。この名前は、この病気が最初に報告された日本の片山地方(※広島県福山市神辺町周辺)にちなんで付けられた。

片山症候群は通常、住血吸虫感染後2週間から12週間で発症する。発熱・蕁麻疹・時に喘鳴を伴う乾いた咳が特徴である。胸部レントゲン写真で下肺野に斑状の浸潤影や微小結節を認めることがある。好酸球増多を示す症例が大半だが、好酸球増多は発症後数週間遅れて起こることがあり、ときに見逃される。ほとんどの患者は2〜10週間後に自然回復する。まれに横断性脊髄炎、脊髄円錐症候群、馬尾症候群などの神経学的合併症が起こることがある。

急性住血吸虫症の診断は困難な場合がある。この時期には、尿や便に住血吸虫の虫卵(図20.2)が見られないこともあり、血清検査が陽性となるまでには3ヵ月かかることがある。そのため、これらの検査は臨床的に診断が疑われた後にも何度か繰り返さなければならない。PCRベースの方法は、旅行者のような最近主に曝露された集団における急性期の住血吸虫感染の診断に有望視されている。

図20.2 Schistosoma mansoniの虫卵

プラジカンテルは未熟な吸虫には効果がなく、急性期にプラジカンテルを投与すると重篤な反応が報告されている。したがって、抗寄生虫剤治療は、吸虫が成虫になるまで、すなわち便や尿から卵が検出されるようになってから行う必要がある。

片山症候群では、重篤な症状、特に神経合併症などの状況によっては、ステロイドによる支持療法が有効な場合がある。

多数の住血吸虫に感染した場合、さまざまなライフサイクルの段階の吸虫が同時に存在することがある。そのため、数ヵ月後の経過観察が必要であり、プラジカンテルによる治療を繰り返さなければならない場合もある。

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