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東南アジアおよびオーストラリア北部で雨季に小児の化膿性耳下腺炎をみたら、メリオイドーシスを考慮する

右化膿性耳下腺炎を呈したラオス出身の3歳男児

現病歴

ラオス農村部に住む3歳の男児が、10日前から右頬に徐々に痛みを伴う腫れが生じ、それに伴う発熱と食欲不振を訴え、耳鼻咽喉科クリニックを受診した。3日前に母親が耳からの膿性分泌物に気づいた。咳嗽、嘔吐、下痢はない。外耳道炎や歯科疾患の既往はなく、外傷歴もない。発達は正常で、予防接種を受けたこともある。両親は稲作農家である。

身体所見

具合が悪そうにぐったりしており、39.5℃の発熱がある。右耳下部から前方にかけて直径6~8cmの局所的で可動性のある熱感・圧痛を伴う腫脹があり、頬下部から顎下領域まで広がり耳下腺腫瘤と一致する(図15.1)。

図15.1 局所性炎症所見を示す片側耳下腺腫瘤を認めるラオス人男児。

耳の診察では、耳道に膿性の分泌物を認める。膿の発生源を疑う小瘻があり、右下部顔面神経麻痺を伴う。口腔内、咽頭は異常なし。リンパ節腫脹と肝腫大はない。心音は正常で、胸部聴診は清である。

検査結果

WBC 16,500 /μL (4000-10000 /μL)、好中球90%。Hb 9.4 g/dL (13-15 g/dL)、その他の血液検査はすべて正常である。

クエスチョン

  1. 鑑別診断はなにか?

  2. 追加で必要な検査は何か?


ディスカッション

ラオス農村部に住むそれまで元気であった3歳の男児が、高熱、片側耳下腺腫脹、耳からの排膿のために地元の病院を受診した。

クエスチョン1の答え

小児の急性化膿性片側耳下腺炎は、通常細菌性である。最も一般的な病原体は黄色ブドウ球菌、A群溶血性レンサ球菌、インフルエンザ菌であるが、インフルエンザ菌はワクチン接種の普及により減少している。新生児はグラム陰性菌による耳下腺炎のリスクがあり、HIV感染児では肺炎球菌による耳下腺炎が起こる可能性がある。

ラオスのような流行地では、メリオイドーシスの原因菌であるBurkholderia pseudomalleiも考慮しなければならない。近隣諸国の研究では、メリオイドーシスは小児の化膿性耳下腺炎の最も一般的な原因であることが示されている。放線菌症や猫ひっかき病(Bartonella henselae)は、細菌性耳下腺炎のよりまれな原因である。

小児の急性化膿性片側耳下腺炎は、通常細菌性である。最も一般的な病原体は黄色ブドウ球菌、A群溶血性レンサ球菌、インフルエンザ菌であるが、インフルエンザ菌はワクチン接種の普及により減少している。新生児はグラム陰性菌による耳下腺炎のリスクがあり、HIV感染児では肺炎球菌による耳下腺炎が起こる可能性がある。ラオスのような流行地では、メリオイドーシスの原因菌であるBurkholderia pseudomalleiも考慮しなければならない。近隣諸国の研究では、メリオイドーシスは小児の化膿性耳下腺炎の最も一般的な原因であることが示されている。放線菌症や猫ひっかき病(Bartonella henselae)は、細菌性耳下腺炎のよりまれな原因である。

ムンプス [おたふく風邪] は、ワクチン接種が導入されるまで、小児の耳下腺腫脹の最もコモンな原因であったが、ラオスを含むいくつかの国では、いまだにワクチン接種が一般的ではない。腫脹は有痛性だが、非化膿性で、ほとんどが両側性となる。耳下腺炎の原因となる他のウイルスには、パラインフルエンザウイルス、インフルエンザA、サイトメガロウイルス、EBウイルス、エンテロウイルスなどがあるが、本症例のような炎症と化膿を起こすことはまれである。

肉芽腫性耳下腺炎は、Mycobacterium tuberculosis, Mycobacterium avium-intracellulare などの抗酸菌によって引き起こされ、より慢性的、無痛性、周囲へ炎症波及のない、腫大した腫瘤を呈する。小児では唾液腺結石や悪性腫瘍は非常に稀である。

クエスチョン2の答え

抗菌薬治療を開始する前に、細菌培養のための検体を採取することが重要である。耳からの膿のグラム染色と細菌培養は迅速かつ非侵襲的である。血液培養の結果は治療や予後に影響するため、採取する必要がある。

咽頭拭い液から原因菌が検出されることがあり、小児のメリオイドーシスの診断に用いられている。耳下腺膿瘍の切開と排膿による深部膿は、最も有用な診断材料であり、膿瘍の管理には排膿が必要な場合がある。これは、超音波ガイド下で行うことができる。

血算は細菌性かウイルス性かの鑑別に役立つ。メリオイドーシスが疑われる場合、胸部X線写真と腹部超音波検査を行い、他の感染巣の有無を確認する必要がある。この患者の場合、骨髄炎を発見するために頭蓋骨のレントゲン写真が有用である。

メリオイドーシスが疑われる場合は、検査室に報告する必要がある。非無菌部位からB. pseudomalleiを分離するために選択培地が必要であるため、そして、発育の疑いがある場合はバイオセーフティーレベル3の条件下で処理しなければならないためである。

メリオイドーシスが確定した場合、糖尿病などの基礎疾患を検索する必要があるが、成人と比べると、小児のB. pseudomallei耳下腺炎では基礎疾患がないことが多い。

症例の続き

右耳漏と耳下腺膿瘍の培養からB. pseudomalleiが分離された.血液培養は陰性であった。胸部X線検査と腹部超音波検査は正常であった。

耳下腺の切開排膿を行い、大量の膿がドレナージされた。セフタジジム点滴静注を10日間行ったあと、アモキシシリン・クラブラン酸を16週間経口投与した。

臨床効果は良好であった。合併症はなく、基礎疾患も特定されなかった。この男児は稲作農家の出身であり、水田でB. pseudomalleiを含む土壌や水に頻繁に暴露された可能性がある。

SUMMARY BOX

メリオイドーシス

メリオイドーシスは、東南アジアおよびオーストラリア北部で見られる腐性グラム陰性環境菌であるB. pseudomalleiによって引き起こされる感染症である。タイ東北部では、HIV、結核に次いで3番目に多い死因となっている。

メリオイドーシスは、長い間その重要性が過小評価されてきた他の熱帯地方とも関連している証拠が増えつつある。

流行地では、土壌や地表水から容易にB. pseudomalleiが分離される。本疾患は季節性が強く、ほとんどの症例が雨季に発症する。

臨床症状は、軽度の局所感染から重篤な敗血症まで多岐にわたる。流行地では、4歳までに60〜80%の小児がB. pseudomalleiに対するセロコンバージョンが認められ、ほとんどの小児感染例では軽度か無症状である。

敗血症性メリオイドーシスは、小児症例の3分の1以上で発症し、臨床症状は成人と同様である。肺が最もよく侵される臓器であり、敗血症性ショックは高い死亡率を伴う。多臓器不全や播種性感染もよく報告されている。しかし、小児メリオイドーシスの大部分は局所的な疾患であり、耳下腺が最もよく侵される部位である。皮膚および軟部組織の膿瘍もよくみられる。耳下腺炎は、成人ではまれで、オーストラリアでは小児では確認されていない。

とりわけ掘削して得た地下水を飲用している場合、B. pseudomalleiに汚染された水を摂取することで、口腔咽頭へのコロニー形成と耳下腺への上行性感染が起こると考えられている。小児の10%未満が素因を持つ。合併症として、耳管への排膿、顔面神経麻痺、敗血症、骨髄炎などが挙げられるが、通常、予後は良好である。

治療の目的は、死亡率と罹患率を下げ、再発を防ぎ、膿瘍をドレナージすることである。外科医に紹介し、ドレナージを検討する必要があるが、このような手術は顔面神経を損傷する危険性がある。小児の限局性メリオイドーシスに対する抗菌薬治療の選択と治療期間を決定するためのエビデンスはほとんどない。著者らは、急性期(10~14日)にはセフタジジム、メロペネム、イミペネムの予防的静脈内投与を推奨しているが、これらの点滴療法は非常に高価である。その後、eradication phaseとして12〜20週間ST合剤単剤で治療する。ST合剤単独での治療は、ドキシサイクリンとの併用と比較して非劣勢であり、小児におけるドキシサイクリンの副作用を回避できることが示されている。アモキシシリン・クラブラン酸はサルファアレルギーや耐性を持つ患者や妊娠中の患者のための代替薬である。

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