ニワトリとタマゴ(アニマルウェルフェアと資源循環)

大寒を過ぎ、1月末から節分にかけての時期を、ニワトリがタマゴを産み始める時期として、七十二候では「鶏始乳(にわとり、はじめて とやにつく)」というそうです。

私は毎朝、朝食に使う卵を割り、最後に残る卵の殻を見て、「キユーピーさんは偉いなぁ」と毎度のように思います。キユーピーといえばマヨネーズが代表的な商品ですが、500gのマヨネーズ1本には4個の鶏卵、しかも卵の黄身だけが使われます。そこで残るのが卵白と卵の殻。もっと正確に言うと、卵の殻の内側には0.1ミリにも満たない薄い卵殻膜もありますが、その卵殻膜も含めて、キユーピーはすべての卵を徹底的に使いきっているのです。お菓子作りをする方にはピンとくると思いますが、卵白はメレンゲなどお菓子作りには欠かせない食材で、お菓子メーカー向けに販売できます。卵の殻はどうでしょうか? 年間42億個の卵を使うキユーピーでは、卵の殻を捨てるのは「もったいない!」と、1950年代から土壌改良剤・肥料として活用しています。さらに、卵の殻には豊富なカルシウムが含まれることから、今ではビスケットなどのカルシウム強化食品の添加剤にも使われているそうです。土の肥料ではなく人間の口に入る食品へと再生するにあたって、キユーピーがとても苦労したのが、殻の内側にくっついている卵殻膜でした。たんぱく質を主成分とするこの膜は、そのまま乾燥して食品に使うとなると独特のにおいが残ってしまう…。そこで、卵の殻と卵殻膜を分離する技術を開発し、卵殻膜は化粧品の原料やサプリメントなどの食品、さらには繊維原料へと活かされるようになったとのこと。このキユーピーの取り組みを毎朝思い出しては、「すごいなぁ。我が家でも1週間で20個近く卵を割るけど、こうした各家庭から出る卵の殻たちもこんな風に良い循環の仲間に入れてもらえないかしら」と思うのです。(卵の殻の一部は、生ごみを堆肥化するLFCコンポストの中に入れていますが全量を入れられるほどコンポストが大きくないのが悩み。)

過去数年、キユーピーの統合報告書の一部を執筆担当させていただいていますが、その中で、同社の長南(当時)社長は、健康長寿に欠かせないフレイル(加齢による心身虚弱)予防のために、タンパク質が豊富な「卵」と「サラダ」を組み合わせることを推奨されています。年齢が上がるにつれて、肉は重たく感じるし全体の食事量そのものが減ってくる中で、卵ならもっと気軽にたんぱく質を摂取できるというのは、なるほどな、と思います。卵にはマヨネーズを、サラダにはドレッシングを!と、同社の販売戦略に陥った感じもしますが、栄養価の高い卵と、食物繊維が摂れて咀嚼力の維持にもつながる野菜のコンビは、健康な食生活のイメージそのものに合致します。

ところで、この卵を産んでくれるニワトリについて、日本では実に9割強がケージ飼いですが、グローバル視点ではこのケージ飼いが「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に反するとして非難を浴びています。アニマルウェルフェアとは、「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という考え方を基本に、家畜がストレスなく健康的な生活ができるような飼育方法を目指すもの。ケージで飼われている日本のニワトリ1羽に与えられる面積は、平均するとざっとB5の紙程度の広さとのことですから、満員電車の中で一生を終えるような、そのストレスはいかほどかと容易に想像できます。EUでは2027年までに、ニワトリはもちろん、ウズラやウサギなどほぼすべての家畜の飼育ケージが撤廃されます。アニマルウェルフェアに反する飼育方法で作られた畜産物は輸入しない、という規制も出てくるでしょう。フランスでは犬・猫のペットショップでの販売も禁止されました。動物の「愛護」から「福祉」に至るまで、見直しを図る動きが世界では進んでいるのです。

人間の健康維持を支える「卵」を産み落とす「ニワトリ」にも心身ともに健康的であってほしい。ニワトリが卵を産み始める時期が来たなぁと、日々の生活で身近に季節の移ろいを感じられた時代には、ニワトリも庭で元気に歩き回っていたんでしょうか。

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