『ぎんしお少々』にハマったことについて

”「楽しいよ、開けてみるまで分からない宝箱が作れるんだよ」”

若鶏にこみ(2021) 『ぎんしお少々』 第1巻 芳文社 P.53)

・はじめに

昨年末から『ぎんしお少々』という漫画作品にハマっている。2021年で一番ハマったきらら作品だ。その魅力を自分なりに整理したく、記事を書いてみることにした。初めて書くものだからいろいろと拙い点もあると思うがご容赦願いたい。ともかく、これを読んで興味を持った方が一緒にハマってくれたら嬉しいし、既読の読者にも読んでもらえると嬉しい。また、誤読等あればこっそり教えて欲しい。

・内容紹介

二組いる姉妹の姉同士と妹同士がカメラをきっかけに出逢い、交流を深めていく様子を描いた作品だ。
まんがタイムきららで2020年より連載開始、2022年1月現在も連載中の4コマ漫画で、単行本第1巻が2021年7月に発売されている。https://www.amazon.co.jp/dp/B097T61368/ref=cm_sw_r_tw_dp_V3239NVC6HSMN49MQ8FN

タイトルに「ぎんしお」とある通り、銀塩=フィルムカメラ、特にトイカメラが作品の中心となる。手ブレ補正もなく、フィルムの感光に気をつけなければならず、撮影した内容の確認もすぐにはできない等、デジカメの普及した時代において不便極まりない代物だ。しかし、塩原姉妹が感じたカメラの魅力と語りかけてくるその内容を読んでいると、どんどん興味が湧いてくる。冒頭に引用したセリフは、カメラ初心者の鈴にまほろが語ってみせるセリフだ。フィルムカメラの不便さが転じて待つ楽しみになることが伝わってくる。本当にいいシーンなのでぜひ作中で確かめて欲しい。
単行本発売時の編集部のツイートにある”うまくいかないのもまた愛おしい”も、この作品の外せない要素を押さえている。カメラの不便さを表す言葉にとれるし、もう一つ、人間関係にもかかっているからだ。これは関係性の項で後述する。
カメラは作中で宝箱としてだけでなく、それで撮った写真が人と人とを繋いだり、人間関係の再認識を行わせるアイテムとして活躍する。
人間関係の妙に満ちたこの作品の中心は、だからカメラなのだ。

・登場人物

以下の4人が主要な登場人物となる。妹組と姉組に分けて紹介する。

画像1

1)藤見姉妹(双子。作者のつぶやきから二卵性であることが判明)

藤見銀
妹。高1。銀髪のロング。色素薄めで綺麗。クール系なようで割と感情が顔に出る。人と(というか もゆるに対して)コミュニケーションをとる際に「頑張りポイント」を消費して行動を行うゲージ消費系少女。同級生の女子に付きまとわれている。

藤見鈴
姉。高1。銀髪のミディアム?。誰に対しても積極的に声をかけていく行動力と面倒見の良さを持つ。人間関係で器用。作者曰く「関係性ダッシュが早すぎるのでコチラとしてはわりと手綱を握るのに苦労します」(2021年1月10日のTwitterリプライ)。お隣の社会人女性にヘンな趣味を教えられる

2)塩原姉妹

塩原もゆる
妹。高1。黒髪のミディアム?。若干言葉足らずなまま行動する点で周りから不思議少女に思われてる様子。一方でモノローグだと大変分かりやすい前向き少女。接客のバイトも普通にこなしているので人当たりは悪くないはずなのに……。姉のまほろからもらったDiana F+を持ち歩く。青くて可愛い。
https://shop.lomography.com/jp/cameras/diana-f-family/diana-f

塩原まほろ
姉。新社会人。黒髪のロング。お隣の女子高生に食事を作らせている。女子高生との不適切行動で捕まらないかにたびたび怯える。カメラや人との付き合いについてもゆるや鈴を導く場面が多い。部屋に鈴用の食器や寝具が増えてませんか?

・関係性

1)妹組(銀・もゆる)

”でも。こいつを見ていると 鈴が居ないと寂しいとか全然感じる暇がない”

若鶏にこみ(2021) 『ぎんしお少々』 第1巻 芳文社 P.81)

高校の入学式の朝、もゆるが銀の写真を勝手に撮影したことをきっかけに交流が始まる。その後、もゆるを鈴の知り合いだと勘違いした銀は態度を軟化させるが、誤解を解かなかったことで一人思い悩む もゆるとの間でひと悶着あったりしながら二人の交流は続いていく。
銀としては鈴に心配をかけたくない一心で、もゆると交友関係を築こうとするが、もゆるの行動や感情の読めなさ、そして距離の近さに一歩引いている。一方で、もゆるは銀に興味津々で撮影したい気持ちからぐいぐい接近していく。
この、もう少し距離をとって欲しいvs近付きたい 二人のせめぎ合いが読んでいて楽しいのだ。もゆるの垂れ流しの好意に銀が引く場面なんかは気持ち悪い笑顔を浮かべてしまいそうになる。銀の、無自覚にも もゆるにとってのキラーフレーズを口にしてしまい好感度が上昇していく様子が面白い。
そんな二人の共通点として、離れて暮らす姉の存在がある。姉と一緒に居られない寂しさを自覚していなかった二人が、互いにそのことを指摘し合い赤面するシーンは必見だ。これを経て、銀の中に もゆるへのシンパシーが生まれる。
カメラへの興味と交友関係のため一緒に行動する内に、銀の中に もゆる個人への思い入れが生じ、ついには友人として一肌脱ぐようになる。最初は写真を撮られることを拒んでいた銀が、もゆると二人、合意のもとで写真を撮る・撮られるに至る単行本第1巻の最後はすごく感慨深いものがある。
少しずつ距離を縮めていく二人の姿は読んでいてもどかしいが、見守っていたくなる愛おしさがある。

2)姉組(鈴・まほろ)

”撮ったやつは全部銀に見せたい”
”なんとなく今朝の事はあたしだけのにしておきたかった”

若鶏にこみ(2021) 『ぎんしお少々』 第1巻 芳文社 P.89)

社会人になって一人暮らしを始めたまほろと、高校進学を機に父と引っ越してきた鈴が、電車の待ち時間を一緒に過ごし、さらに家がお隣さんだと判明したことから交流が始まる。その様子は銀ともゆるに対して濃く感じる。鈴が日常的にまほろ宅へ入り浸っているためだ。作中の描写だけだともうほとんど同棲。また、銀に比べて鈴は他者との距離が近く、まほろとの間にもスキンシップが多く見られる。人付き合いが良くない年上のお姉さんとコミュ力の高い年下の少女の組合せ!!!(突然暴れ出す患者)。取り乱したがスロウスタート読者なので仕方ないんだ見逃して欲しい。若鶏先生が2021年2月号の告知(10話)を2021年1月9日にツイートされているが「ぎんしお少々は女女ふしだら漫画じゃありません」と書かれていて(???日本語の比喩的表現??)となった。そんなはずは……。
二人の関係は知らない世界を教えてくれるお姉さんと教えられる女子高生というスタート地点から最速最短で一緒におうちでお料理、デート、同衾まで駆け抜けていく。気がふれそう。ここからはまほろの防御力と鈴の攻撃力、そしてきららコード(要出典)との戦いになると予想される。早く女子高生と何かやらかしてくれ(短冊)。

・「うまくいかないから」「また撮りたいって、思うんだ」

魅力をキャラクター中心に語ってきたが、そろそろ大まかなまとめといきたい。内容紹介で書いたことと重なるかもしれないが、この作品の魅力はカメラと人間関係だ。
作中でまほろのセリフとして出てくるが、フィルムカメラは大変スローな趣味だ。手のかかる部分も楽しみ、愛しむものだ。「待つことこそフィルムの最大の楽しみだ」「持って外に出ると景色が特別に見える」「開けてみるまで分からない宝箱」といったように、その魅力は繰り返し描かれる。
また、魅力のみでなくカメラの失敗から人間関係が変化する印象的なシーンでのセリフが見出しだ。序盤のクライマックスとなる4話からの引用で、騙している負い目から銀を避けていた もゆるが、中学時代の友人作りの失敗(軽く描いてあるのに読み返すたびに泣きそうになる)とカメラでの失敗を重ねて、次はもっと頑張ろうと仲直りを決意して呟く。仲直りの結果がどうなるかは単行本で確かめて欲しい。
8話のまほろと鈴の初同衾(枕も布団も二つだから同衾じゃない? どうなんでしょうか……。)シーンでも印象的なセリフがある。まほろの「トイカメラに興味が湧く人間は手がかかることに振り回されて喜ぶドエムかそれでも使いこなしたいドエス」というものだ。
主要な登場人物4人を見ると、誰も彼もが誰かを振り回し、そして振り回されてるし、それでも相手を思う、分かろうとする気持ちで行動している。そこにあるのは多分愛情で……。そんな登場人物たちの抱える気持ちが、カメラのもたらす縁とコミュニケーションで少しずつ解きほぐされて明確になっていたり、形を変えていく。フィルムカメラと人間の愛おしさが詰まっているのがこの作品の一番の魅力だ。

・読んで欲しい

恥ずかしながら私はこの作品を1巻発売から半年近く経ってから読んだため、2巻収録話の最初の方をまだ読めていない。そのため、写真同好会の立ち上げについてや先輩たちとの関係について把握できていないところがある。
私のように後追いでハマった人たちもいると思う。そんな単行本派には、ニコニコ静画で公開されている下記リンク(2022年1月1日更新分14話)を読んで欲しい。ちょうど2巻収録分の最初の回なのだ。

ぎんしお少々 第14話 / 若鶏にこみ - ニコニコ静画 (マンガ) http://nico.ms/mg609381

ニコニコ静画は最新話から7,8話ほど遅れているが、更新ペースが隔週のため最終的には1,2話遅れ程度までには追いつくと思われる。最新でなくていい、無課金で読みたい、という方はこちらで追ってみるのも良い。また、単行本でカラーでなくなるページもこちらではカラーで読める。

そして最新話をこれから読んでいきたいという方には断然COMIC FUZがおすすめだ。紙で買うのが不動の一位なのは変わりないが自明なので省く。

最も安価なライトプラン(月額480円)で芳文社の雑誌が全5種類(週刊漫画TIMS、きらら、キャラット、MAX、フォワード)読み放題で、単純に読むだけならこれで済む。筆者はこのプランに加入している。画質は詳しい人の記事を読んで欲しい。kindleやbookwalker読み放題はこれらの雑誌がひと月遅れ配信のため、最新で読めるCOMIC FUZでの購読をおすすめする。

また、あわせて作者のTwitterを読むことをおすすめしたい。作中や単行本でも明かされていないネタも多く発信されておりファンは必見だ。


最後に、ひとまず思いのたけを記事にぶつけたが、この作品の良さを1割も書けていない気がする。
この作品のキモは、若鶏先生の描くキャラクターたちの表情、描き込まれた背景、繊細に選び抜かれたセリフあってのものだからだ。何度読み返しても発見があり、その作りの巧妙さに唸らされる。また、同作者の過去作である『放課後すとりっぷ』もキャラクターたちの関係性の妙が詰まっていておすすめだ。ぎんしおを読んで気に入ったならそちらも読んで欲しい。

最後まで読んでくれてありがとう。

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