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ママイさんと「おしょらいさん」の話

お盆休みが到来したが、この時世皆様はいかがお過ごしだろうか。私は実家に帰る予定だったのだが住んでいるのは愛知県、県独自の緊急事態宣言が出ており県外へ出ることはちょっと、ということがあるのと、パート先でも県外に出る際は職員に報告、場合によっては帰宅後も自宅待機という話が出たので帰省はもう少し落ち着いてから、ということになった。しかも、私の実家には「おしょらいさん」がある。気軽に今帰ると夫とベビイさんがびっくりするかもしれない。


おしょらいさんとは、主に関西〜北陸地方で行われるお盆の時期の過ごし方のようなものだ。先祖の霊が帰ってくるので暖かくお迎えしてゆっくり過ごしていただきましょうというこのおしょらいさん、呼び方や過ごし方は地域や宗派によって少し変わる。私の実家は滋賀の田舎で天台宗の家なのだが、浄土真宗の家の子はやっていなかったし、同じ集落に住んでいた天台宗を信仰する家の幼馴染みは子どもは対象外として自由に過ごしていたので、子どもだろうが何だろうが構わず動員していた私の実家はしっかりめにやっていたのだと思う。

名前も聞き慣れないが、人に話して驚かれるのはその過ごし方だ。これ、うちもやっています!という奇特な方はぜひ一報いただきたい。これめちゃくちゃ大変じゃなかったですか。


厳密な日程は忘れたが、8/6〜8くらいからおしょらいさんの準備は始まる。墓地の清掃をし、毎日夕方になったら灯籠と線香を持ってお参りをするのだ。墓地で灯籠に火を灯し、家まで火を消さないように持って帰り、夜になったら消す。これを8/12まで繰り返す。そしてこの時期中に仏具を磨き、蓮の葉っぱ、麻ガラなどを用意しておく。

8/12は例年親戚がやってきて墓参りをする。昼間に寺(寺の敷地内に墓がある、またそれとは別に集合墓地もある。ややこしいのだ)にお参りし、住職にお経をあげてもらう。これで終わりかと思いきや、本番は翌日からだ。艦これで言うなら前段作戦、E-1〜4。刀剣乱舞なら今やってる連隊戦でいうところの貝が50000個集まって、10万行ったらとりあえず新キャラを迎えられるあの感じ。おしょらいさんは夏の大規模作戦なのだ。


さて、8/13である。

おしょらいさん、つまり先祖の霊御一行は夕方現世に到着されるとされているので、昼のうちに仏壇の前に机を出して、むしろと蓮の葉を敷き、野菜や果物を供え、仏壇の横には親戚などからもらったお中元をどんどん並べる。麻ガラは短く切ってお盆に積んでおく。これは後々使うのだ。

期間中の食事だが、私の実家は「毎日昼と夜は何を出すのか1品決まっており、それ+αを家族が食べる。肉は食べても良い」というルールだった。おしょらいさんをやっていた友人の家はご先祖様がいる間は肉食禁止と言っていたので、食事については緩めのルールなのだと思う。メニューは記憶が定かでないので申し訳ないのだが、8/13はなすの酢味噌和えだった気がする。個人的にあまりおいしくない。

夕食を食べたら、一家全員で読経だ。天台宗のお経と、もうひとつおしょらいさんに欠かせないのが「西国三十三か所御詠歌」である。

興味がある人はめちゃくちゃ長いけどこれの再生リスト順に聞いてみてね。

木魚と鐘を叩きながらトータル1時間余り、これが実家にいる間は結構辛かった。上手く詠えないし、適当にしていると怒られるし、テレビが観たくても見せてもらえない。これがあるので、仮にお盆期間中遊びに行けたとしても夕方には帰宅しなければならないし、泊りがけの旅行はもってのほかなのだ。だから、私は家族で泊りがけの旅行をした記憶がほとんどない。いくら会社が休みでもお盆休みは家にいなければならないのだ、なかなかしんどい。

13日の夜から14日の夜にかけて、親戚や近所の人がかわるがわる家にやってくる。お中元とお参りのためだ。私が実家にいた頃は祖母が、祖母亡き今は母が近所の家を回ってお参りをしている。また、住職も来てお経をあげてくれる。いつ来るのかははっきりしないので家を空けられない。つらい。8/14は昼がそうめん、夜は何だったか思い出せない。新粉餅(米粉のお餅?のようなもの。きな粉をかけて食べるとおいしい)だったかなあ…。


8/15、ご先祖様が天界に帰宅される日。昼過ぎまでゆっくりしていけばいいのに、出発は早朝だ。そんなに混むのか、ワープはできないのか。生きている人間もご先祖様をお見送りするため、5時前から読経である。本当にもうちょっと遅くならないのか、本当に眠い、辛い。

読経が終わったら、麻ガラの出番だ。お参りに来ていた人たちもやっているのだが、この麻ガラで体の悪いところをなでてご先祖様に持ち帰ってもらう。そうすると悪いところが治る…らしい。小さい頃は「頭が良くなりますように」と頭をこすられたがあまり効果はなかった。こすられてマシになってこの体たらくなのかもしれないが、どうなんでしょうご先祖様。

ここまでやったら、一家全員で近所の用水路に行く。そこで線香をあげ、「今年もよくおいでくださいました。また来年お越しください、どうぞお気をつけてお帰り下さい」と読経し、昔は蓮の葉に包んだ花と麻ガラを川に流していた。今は環境保全のために流せなくなっているので、流すふりをしている。帰宅したらお寺にお米とお金を持って行って、おしょらいさんはおしまい。


非常にめんどくさい。

小さいころからこの風習が嫌いだった。これのせいで家族でどこにもお出かけできないし、日記に書くことがないし、家にはこんなのがあってね、という話をすると家がカルトか何かなのかと言わんばかりの目を向けられたこともあった。同じお寺の檀家さんであるはずの幼なじみが年寄りだけでいいというルールで、子どもたちは割と自由にしていたというのも大きい。学校の先生もそんなものは聞いたことがないという先生ばかりで、自分の置かれた環境は異質なのかと悩んだりもした。今となってはうちの実家珍しいんですよ~と話のタネにできるのでそんなに何とも思っていないし、ただただのんびりと過ごすだけのお盆の夜が未だにちょっと慣れなかったりする。これに類似した風習があるよ!という方、Twitterでも何でもいいので本当にご一報ください。大変じゃなかったですか。


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