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統計検定1級の勉強法


§1.はじめに

 日本統計学会が公式に認定する統計検定のうち,その1級の勉強法について書きたいと思います.まず,基本情報として,統計検定1級には統計数理統計応用の2科目があり,1級の取得にはその両方への合格が必要となります.また,統計応用は人文科学,社会科学,理工学,医薬生物学の中から一つ分野を選んで受験することになります.(私は理工学で統計応用を取得したので,この記事では理工学についての記述のみとなります.)過去問はインターネット上で1年分のみ公開されているので,是非確認してみてください.

§2.教科書

 さっそくですが,勉強に使うおすすめの書籍を紹介したいと思います.(最近は統計人気が高まっていることもあり,多数の書籍がありますので,実際に本屋でいろいろなものを手に取って見てみることをお勧めします.)

 まず,勉強の核とすべき教科書は,『現代数理統計学の基礎』が最適です.内容は統計数理の範囲のほとんどを網羅しており,申し分ありません.しかしながら,難易度は(Lebesgue積分論を仮定しない教科書の中では)高めですので,ある程度の覚悟をする必要はあります.この教科書の最大の長所は,このサイトにすべての演習問題の解答が掲載されており,自学がしやすいことでしょう.

 次に,典型的な問題の解法を学べる演習書として,『明快演習 数理統計』があります.こちらは難易度はあまり高くありませんが,重要事項が例題形式でコンパクトにまとまっており,とても役に立ちます.

 基本的に使う教科書はこの2冊で十分ですが,統計応用の試験範囲を確認していただけると分かるとおり,この2冊ではカバーできない範囲が存在します.そこで,公式テキストである『統計検定1級対応 統計学』も手元に置いておくべきだと思います.具体的な使い方は次のセクションで述べます.

§3.具体的な勉強法

 まず,『現代数理統計学の基礎』の第4章(多次元確率変数の分布)までを徹底的に頭に叩き込みます.ここの内容はその後の内容の理解に必須ですので,演習問題を含めて完璧にこなさなければならないでしょう.また,Convolutionの計算をはじめとして,教養課程レベルの微積分の知識は必要となるので,必要に応じて復習するべきだと思います.特に,重積分の変数変換は頻繁に使うので要チェックです.(ここではあまり登場しませんが,後々ある程度高度な線形代数の知識を用いる場合があるので,線形代数についても同様に復習すべきですが,とりあえずは微積分が優先です.)ここの内容の理解度で後々の大変さが大きく変わりますので,くり返しにはなりますが,徹底的にやってください.

 次に,第5章(標本分布とその近似)から続く本格的な統計の章をじっくりと読み進めます.とりあえずは「統計的なものの考え方」に馴染み,『明解演習 数理統計』の対応する部分の例題で具体例にたくさん当たっていくのがいいと思います.この辺りの『現代数理統計学の基礎』の演習問題は統計検定1級の問題よりかなり難しいものも多く,合格だけを考えるのであれば後回しでもいいと思います.第8章(統計的区間推定)まで終われば,統計数理の問題は一通り解けるようになっていると思います.実際の試験では5問の中から3問を選択して解く形式なので,多少の取りこぼしがあっても合格点(概ね7割以上)の得点は取れてしまうと思いますが,統計応用のためにも手は抜かないでください.

 ここまでの内容を復習しつつ,自分の頭で再構築できる段階になってからは,『統計検定1級対応 統計学』の第Ⅱ部で理工学のキーワードに触れ,それらに基づいて自分で書籍を買ったり,インターネット上のPDFを探したりするといいと思います.ここの作業が一番難しく,掴みどころがないですが,過去問を見ていただければ分かるように,それぞれの分野についての高度な理解は必要とされていません.効率よくつまみ食いするのが合格への近道でしょう.その中でも,品質管理実験計画については特に気を配るといいと思います.(しかしながら,ただ合格するためだけの勉強ではあまりにも味気ないので,自分の興味にあった分野の本をとことん読むことが長期的には有益かなとは思います.)

§4.おわりに

 この記事では統計検定1級の勉強の一つの指針を書きました.より詳しい内容についてはまた別の記事で書いておこうと考えています.少しでも多くの人の役に立っていただけると幸いです.

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