解釈の際に働いている「慈悲の原理(principle of charity)」by ドナルド・デイヴィッドソン(Donald Davidson)
哲学者ドナルド・デイヴィッドソンの「根元的解釈(radical interpretation)」という考え方がある。この場合のラジカルというのは、解釈する者と解釈される者の間に共通の文化的な要素の蓄積が全く無い場合における解釈の作業はラジカルなものであるという意味である。われわれはある言説ないし他者の発話を見聞きしそれを理解しようとする際に、相手はこの言語表現を用いてこういう考え・感受性を表現しているのだろう、あるいは伝えたいのだろうという形で、他者の言語行為を含めた様々な行動についての解釈(interpretation)を行っている。その解釈の際に働いている原理として、デイヴィッドソンは「慈悲の原理(principle of charity)」という概念を提出した。すなわち、われわれはそのような解釈の際に出来るだけ、相手がとんでもないことを言っているのではなくて、何らかの形でわれわれにとって広い意味で合理的に理解可能な発言・行動を取っているはずだ、という形で、ある原理に従った解釈を行っていると言う。そこには合理性という規範概念が働いている。われわれは日々の生活の中でお互いにそのような慈悲の原理に従って、すなわち合理性という規範概念に従って解釈を行うことによって、相手の心的内容の理解、言語を通してでも通さなくても、われわれの相互理解を形成し、そしてそれによってわれわれの人間としての生活が成り立っている。そこに働いている規範性は自然科学では説明できない。自然科学は(量子力学は別として)、物理的な必然性についての説明はできるが、規範性は説明できない。物理学から人間の行動についての説明は導出できない、あるいは物理主義だけでは全ては捉えきれないという議論がそこからも出てくる。
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