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2021東京優駿(日本ダービー)観戦記~血は争えない、歴史は繰り返す~

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その差はわずかに10センチ、大接戦の末にシャフリヤールが世代の頂点に立った今年の日本ダービーを振り返っていく。


今年の結果を見て「血は争えない」と言われれば何を思い浮かべるだろうか?おそらく多くの人はダービー2着馬をこれでもかとばかりに集めたエフフォーリアの血統について思うところがあるだろう。私がこの表現を使った理由は2つある。1つはその通りエフフォーリアの血統についてである、そして勘の良い人はもう気づいているだろう残りのもう1つに関しては後半で述べていきたい。

多くの注目ポイントが乱立した今年のダービーについてまずは戦前の状況をまとめておきたい。若干22歳で横山武史がダービージョッキーになるのか?それに伴いエフフォーリアが無敗の二冠馬になるのか?牝馬大将格のサトノレイナスが参戦、国枝トレーナー里見オーナーの悲願なるか?また牝馬上位の流れはクラシックでも続くのか?2歳王者ダノンザキッドが直前で無念の離脱、初のフルゲート割れ。ノーザンファーム大挙出走、3年ぶりにダービーを奪還なるか?ラストクロップに近いディープインパクト産駒最後の制覇があるのか?他にもいろいろあったと思うが例年以上に見どころの多いダービーであったことは間違いない。

エフフォーリアとサトノレイナスの二強対決、あるいはエフフォーリアに挑む16頭の中ではサトノレイナスが最有力、という見立てがされており現に単勝オッズが10倍を切ったのはこの2頭だけとなった。枠順も最内枠を引いたエフフォーリアと外から2頭目16番を引いたサトノレイナス、ともに脚質なりの枠に収まったと見え、牡馬と牝馬の比較、勢いに乗る若手トップジョッキーと押しも押されぬリーディングジョッキーの対決とどこを切ってとっても注目の中心はこの2頭であった。

レースが始まってもその構図は変わらず、内から好スタートを切ったエフフォーリアには前週のソダシよろしく厳しいマークが集まり必然的に道中位置を下げる運びとなった。一方思ったよりも前、中団に位置したサトノレイナスは緩いペースを嫌い底力比べ上等とばかりに道中その位置をさらに押し上げた。

結果的にはこのサトノレイナスが見せた強気の仕掛けがレース展開に大きな影響を与えたと言える。ダービーレコードとなったように全体の時計も速かったが実際は前後半で約3秒も差がある極端な後傾ラップとなっており特に速かった後半の5ハロンはなんと57秒フラットである。残り1000はまさしくサトノレイナスが先頭に立った位置であり、道中の押し上げにとどまらずそこからさらにペースを上げる肉を切らせて骨を断つ2弾ロケット戦法でサトノレイナスもといクリストフルメールは勝負を賭けた。奇しくもいや皮肉にもそれはエフフォーリアに味方したと言って差し支えないだろう。道中周りの動きで厳しい位置取りを強いられたエフフォーリアだが、厳しい展開に内を進んだ先行勢が早々にギブアップしたことで直線は比較的容易に進路を確保することが出来た。外外を回りながら早目先頭に立ち直線押切を図ったサトノレイナスだったが、それなりに脚を溜められかつ内目をうまく捌けたエフフォーリアに対して残り300でリードは底を付き万事休す。ルメールの勝負手が不発に終わり、対抗筆頭馬の奇策をも退けたエフフォーリアが単騎先頭を走る、勝負は決まったかに思われた。しかし死力を尽くしていたのはエフフォーリアも同じそのストライドがわずかにしかし確実に外に流れ始めたその刹那黄色い帽子が内に切れ込みながら先頭を急追する。シャフリヤールの強烈な内差しである、ように見えたが実際シャフリヤールはそこまで内に切れ込んではいない、前を斜めに走ったエフフォーリアの後ろを真一文字に伸びただけであった。その冷静と情熱のあいだと鞍上が名付けた渾身の追いは最後の一完歩で成就、並んだようにも僅かに差したようにも見える際どいタイミングでの入線となった。

もちろん、横山武史騎手の手綱さばきをとがめるつもりは毛頭ない。包まれそうになる流れを捌き切って情熱いっぱいに直線を駆け抜けた。はっきり言って今回のレースに関して言えばルメール騎手よりもはるかにうまく乗っているし、脚を余さず使い切る乗り方は彼の持ち味でもある。ただそこにどれほどの冷静さが残っていただろうか。しかしそもそも福永騎手とて完璧な騎乗をしたわけではない、進路に苦心し馬に究極の瞬発力がなければシャフリヤール前が壁と揶揄されておしまいの騎乗だった。ただ勝負は水物であり今回に関して言えば、ルメール騎手の勝負手は嵌らず、ベターを尽くした横山武史騎手は優勝にわずかに届かず、勝負のあやが全て噛み合った福永騎手とシャフリヤールに凱歌があがった。

先頭集団に追いついたタイミングでサトノレイナスが一呼吸入れておけば、エフフォーリアが直線まっすぐに走っていれば、ヨーホーレイクの進路が開けていればーこれまで全戦で上がり最速を記録していながら今回は不利に泣いた同馬、もし今回も上がり最速だったと仮定すれば時計上は勝ち負けしているーあるいはシャフリヤールの首の上げ下げがもう少しずれていれば、すべてのifは今回シャフリヤールに味方した。

そろそろ冒頭の答え合わせをしよう、ダービー惜敗一族の血は争えずエフフォーリアもまた僅差に泣いた。そしてもう一つ繰り返された歴史は横山家が22歳で味わったほろ苦さである。1990年横山典弘騎手はメジロライアンを駆り1番人気でダービーに挑み2着に敗れている。その時逃げるアイネスフウジンを捕まえ切れなかった典弘騎手、31年後息子はわずかに捕まえ切られた。

いろいろな視点から見て今年のダービーは繰り返される歴史の象徴だったように思う。2010年エイシンフラッシュが上がり32秒台の末脚で世代の頂点に立ったように決め手勝負になれば藤原厩舎仕込みの瞬発力は本当に恐ろしい。武豊騎手が出ているダービーで勝ちたかった述べたように同年は自厩舎のザタイキによる落馬事故で豊騎手は離脱中だったが師はこうして11年越しの夢を叶えた。そしてシャフリヤールの父ディープインパクトは皐月賞と菊花賞を444キロの馬体重で制した。今回、シャフリヤールの馬体重も444キロ。シャフリヤールは今回の出走馬の中で最低馬体重、父の皐月賞も菊花賞もそうであったように。

歴史は繰り返すという話ばかりすると、あたかも抗えないものが多いように聞こえるだろう。しかしもちろん歴史は悔しく残念なものばかりではない。歴史が繰り返すからこそ、きっとエフフォーリアは父エピファネイアや祖父シンボリクリスエス、ハーツクライのようにもっと強くなり偉大な種牡馬になっていくのだろう。そして血が争えないからこそ横山武史騎手もいつか父のような立派なダービージョッキーになるのだろう。競馬史の数だけドラマとロマンがある、ダービーは今年もまた最高だった。

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