ヤバい奴

1.自覚

 今までも友人から「お前はヤバいやつだ。」と言われていたが、どうやら自分は本当にヤバいやつなのかも、と自分でも自覚するようになってきた。

 飲み会で職業を聞かれたら、私は「旅人です。」と答えている。本当は無職なのだが、無職という言葉は日本社会ではどうやらネガティブな印象を持たれるらしい。私は無職であることに劣等感や恥ずかしさを持たないのだが、多くの人は「自分とは違う価値観を持っている人」と思うようだ。

 私は旅が好きだ。退職して有り余る時間を自分の好きなことに使えるようになって、一番やりたかったことが旅行だったので、「そうだ、旅人になろう。」と思った。これまでの私の仕事は出張の少ない仕事だった。年に数回の国内出張がある以外は、一年中ずっと建物の中で椅子に座って仕事をしていた。旅行といえば、たまの3連休や夏休みの長期休暇に近場のアジアに行くくらいのもの。つまり、1か月の長期滞在旅行など、願っても叶えられない生活だった。それが今は何時でもいつまででも、好きなだけ旅が出来る。いま行かずしてどうする。そうして一年のうち3か月くらいを海外で過ごすようになった。飲み会で「職業は旅人です。」というのはそれほど間違っていない(と思っている)し、無職と言うよりはマシなような気がしている。

 旅の楽しみの一つは、食べることだ。若いころからアジアを歩いたせいか、カレーが好きだ。日本にいて頻繁に行けるわけでもない旅に突然行きたくなった時の応急処置としては、各国料理店に行くのが手っ取り早い。

 私の住んでいる田舎ではエスニック料理店が多くあるわけではないが、それでも各店で特徴がある。北インドカレーに強い店もあれば、南のほうの酸っぱいカレーを出す店もある。ネパール人コックのいる店では、ネパール料理が食べられる。飛行機に乗らずにお手軽に旅気分を楽しめるのはやっぱり嬉しい。

 自宅周辺のお店を食べ歩くにつれ、次第に自分の好みのカレー像が出来上がってきた。そしたら次は自分で作ってみたくなるものだ。今日はインド風チキンカレー、先週はタイのフーパッポンカレー、その前はインドの炊き込みご飯のビリヤニ、といった感じ。

 初めはレトルトやキットのカレーを買って作っていたのだが、次第にアレンジしたくなりお米にこだわるようになった。インドやパキスタン産のバスマティライスを何種類か買い込み、食べ比べるようになった。次にこだわったのがカレーソースのほうで、複数の香辛料やカレーパウダーを買って調合をするようになった。その次はカレーに入れる具材に興味を持った。汁物カレーの代表といえばチキンかマトンか、その時に合わせる香辛料は何が良いか、ビリヤニには炒ったカシューナッツやドライフルーツは入れるべきか、などなど、気になりだしたらキリがない。

 そこではたと気が付いた。無職で職業を旅人と言い、香辛料からカレーを作る自分は、ヤバいやつなのではないかと。友人が言っていたのはそういうところだったのかもしれないと。(続く)

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