実施基準 二 5 特別な検討を必要とするリスク

監査人は、虚偽の表示が生じる可能性当該虚偽の表示が生じた場合の金額的及び質的影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価した場合には、そのリスクを特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなけばならない。/特に、監査人は、会計上の見積り収益認識等の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、特異な取引等、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、そのリスクに対応する監査手続に係る監査計画を策定しなければならない。

実施基準二5

監査人は、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、それが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための実証手続を実施し、また、内部統制の整備状況を調査し、必要に応じて、その運用状況の評価手続を実施しなければならない。

実施基準三3

監査人は、会計上の見積りの合理性を判断するために、経営者が行った見積りの方法(経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを含む。)の評価、その見積りと監査人の行った見積り実績との比較等により、十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。

実施基準三5

監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない。

一般基準3

監査人は、財務諸表の利用者に対する不正な報告あるいは資産の流用の隠蔽を目的とした重要な虚偽の表示が、財務諸表に含まれる可能性を考慮しなければならない。/また、違法行為が財務諸表に重要な影響を及ぼす場合があることにも留意しなければならない。

一般基準4

監査人は、監査計画及びこれに基づき実施した監査の内容並びに判断の過程及び結果を記録し、監査調書として保存しなければならない。

一般基準5

監査人は、職業的専門家としての懐疑心をもって、「不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性」に関して評価を行い、その結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならない。

実施基準一5

監査人は、監査の実施において不正又は誤謬を発見した場合には、経営者等に報告して適切な対応を求めるとともに、適宜、監査手続を追加して十分かつ適切な監査証拠を入手し、当該不正等が財務諸表に与える影響を評価しなければならない。

実施基準三6

経営者が内部統制を無効化するリスクは特別な検討を必要とするリスクである。
(2015 Ⅱ)

リスク評価手続としての分析的手続は、監査上留意すべき通例でない取引等を識別することを目的とする。

■監査基準の改訂2005
・会計上の見積り収益認識等の重要な会計上の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項
不正の疑いのある取引
・関連当事者間で行われる通常ではない取引等の特異な取引
等は、監査の実施の過程において特別な検討を行う必要がある。
→「特別な検討を必要とするリスク」

■監査基準の改訂2019
近年、財務諸表において会計上の見積りを含む項目が増え、これらに対する監査の重要性が高まっている中、具体的な監査上の対応や監査人の重要な判断に関する説明・情報提供の充実が要請されている。

■監査基準の改訂2020
★財務諸表項目レベルにおける固有リスクと統制リスクの分離評価

財務諸表全体レベルにおいては…

従来のあり方:


リスク・アプローチに基づく監査の実施に当たって、財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを適切に評価することがより一層重要となるなか、監査人は、固有リスクに着目をして、特別な検討を行う必要があるか考える。

★固有リスクの評価
財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを構成する固有リスクについては、重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案し、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響を組み合わせて評価することとした。この影響には、金額的影響だけでなく、質的影響も含まれる。

★特別な検討を必要とするリスクの定義の明確化
財務諸表項目レベルにおける評価において、虚偽の表示が生じる可能性当該虚偽の表示が生じた場合の金額的及び質的影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価した場合には、そのリスクを特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなけばならない。

◇固有リスク
関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、取引種類、勘定残高、開示等に係るアサーションに、個別に又は他の虚偽表示と集計すると重要となる虚偽表示が行われる可能性をいう。

◇特別な検討を必要とするリスク(2022)
識別された以下のような重要な虚偽表示リスクをいう。
固有リスク要因が、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合い(金額的及び質的な影響の度合い)の組合せに影響を及ぼす程度により、/固有リスクの重要度が最も高い領域に存在すると評価された重要な虚偽表示リスク
②各監査基準委員会報告書の要求事項にしたがって特別な検討を必要とするリスクとして取り扱うこととされた重要な虚偽表示リスク

★特別な検討を必要とするリスクについて考慮すべき代表的な3種類の事項又は取引
① 会計上の見積り
② 不正の疑いのある取引
③ 特異な取引

◆会計上の見積り
適用される財務報告の枠組みに従って、金額の測定に見積りの不確実性を伴うものをいう。

◆見積りの不確実性
会計上の見積り及び関連する開示が、正確に測定することができないという性質に影響される程度をいう。

◆判断による虚偽表示
虚偽表示の分類の一つ。
監査人が合理的でないと考える会計上の見積り又は監査人が不適切と考える会計方針の選択及び適用に関する経営者の判断から生じる差異をいう。

◇会計上の見積りの変更
有形固定資産の減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更として取り扱い、将来にわたり会計処理を行う。

◎会計上の見積りが必要なものの例
☑伝統的な項目
・引当金の設定額
・償却資産の減価償却額

☑新しい会計基準の設定に伴って必要となったもの
税効果会計→
退職給付会計→
リース会計→

☑新しい会計基準や実務指針により、従来よりも精緻な見積りが要求されるようになった領域
金融商品に係る会計基準→貸倒見積高

会計上の見積りを要するものの例として、繰延税金資産の回収可能性や金融商品の時価評価に用いる合理的に算定された価額などがある。(2010 I)

監査人は、会計上の見積りにおけるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価の根拠を考慮し、当該リスクに対応するリスク対応手続を立案し実施しなければならず、監査調書には当該リスクと実施したリスク対応手続との関連性の記載を要する。(2022Ⅱ)


◆収益認識と不正リスク
監査人は、通常、収益認識には不正のリスクが内在するものと推定し、収益に関する取引等において不正のリスクが顕在化する可能性について検討しなければならない。

売掛金に係る特別な検討を必要とするリスクの具体例
① 売掛金のうち滞留債権について評価の妥当性を誤り、十分な貸倒引当金が計上されないリスク
② 売掛金の回収について、従業員による横領が発生し、それが隠蔽されることにより、売掛金に係る虚偽の表示が生じるリスク(表示の妥当性)
③ 関連当事者への販売取引について網羅的に把握されず、関連する開示情報に不備が生じるリスク(網羅性)

★「株式交換による大型の企業買収」に伴う会計処理

株式交換による企業買収
・非定型的で複雑な取引
・見積りや判断を伴う
   ↓
虚偽の表示となる可能性が高い。
内部統制により発見・是正されない可能性も高い。

資産価値や企業価値の見積り及びそれらを通じた交換比率の見積りが主観的であるため、その判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性がある。
会計方針の選択適用において意図的な虚偽の表示がなされる可能性や、企業結合後の報告利益を過大に計上するために企業結合時の資産の過小計上負債の過大計上がなされる可能性がある。
株式交換による企業結合という特異な取引であり、被取得企業の内部統制に著しい不備があり、不適切な会計処理や記録がなされている可能性がある。

大型の企業買収
→虚偽の表示となる場合に、財務諸表に及ぼす影響が重要となる可能性が高い。株価を高めるため、財務諸表の全体にわたって虚偽の表示がなされる可能性がある。

以上より、「株式交換による大型の企業買収」には特別な検討を必要とするリスクが存在すると判断される。

■重要な連結子会社
企業集団に対し個別の財務的重要性がある連結子会社又は連結財務諸表に係る特別な検討を必要とするリスクが含まれる可能性のある連結子会社のことを指す。

■関連当事者
関連当事者との関係及び関連当事者との取引に伴う重要な虚偽表示リスクを識別し評価するとともに、当該リスクが特別な検討を必要とするリスクであるかどうかを判断しなければならない。


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