一般基準 3 正当な注意と懐疑心

監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない。

一般基準3

監査人は、職業的専門家としての懐疑心をもって、「不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性」に関して評価を行い、その結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならない。

実施基準一5

監査人は、財務諸表の利用者に対する不正な報告あるいは資産の流用の隠蔽を目的とした重要な虚偽の表示が、財務諸表に含まれる可能性を考慮しなければならない。/また、違法行為が財務諸表に重要な影響を及ぼす場合があることにも留意しなければならない。

一般基準4

監査人は、監査の実施において不正又は誤謬を発見した場合には、経営者等に報告して適切な対応を求めるとともに、適宜、監査手続を追加して十分かつ適切な監査証拠を入手し、当該不正等が財務諸表に与える影響を評価しなければならない。

実施基準三6

監査人は、財務諸表項目に関連した重要な虚偽表示のリスクの評価に当たっては、固有リスク及び統制リスクを分けて評価しなければならない。固有リスクについては、重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案し、虚偽の表示が生じる可能性当該虚偽の表示が生じた場合の影響を組み合わせて評価しなければならない。/また、監査人は、「財務諸表項目に関連して暫定的に評価した重要な虚偽表示のリスクに対応する、内部統制の運用状況の評価手続及び発見リスクの水準に応じた実証手続」に係る監査計画を策定し、実施すべき監査手続、実施の時期及び範囲を決定しなければならない。

実施基準二4

監査人は、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の金額的及び質的影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価した場合には、そのリスクを特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなけばならない。/特に、監査人は、会計上の見積りや収益認識等の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、特異な取引等、特別な検討を必要とするリスクがあると判断した場合には、そのリスクに対応する監査手続に係る監査計画を策定しなければならない。

実施基準二5

監査計画の策定から監査意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在するおそれに常に注意を払わなければならない。

◇正当な注意の行使を確保するための方策
①監査実施者が監査の基準に準拠する。
能力や独立性を保持した監査実施者が、リスク・アプローチに基づいて監査を実施し、適時に監査調書を記録し、意見表明のための基礎に基づいて意見表明する等、正当な注意を具現化した監査の基準に準拠する。
②監査実施者が監査の基準に準拠しているか監視する。

◆職業的専門家としての正当な注意
 監査人が職業的専門家として通常払うべき注意、または社会から当然に期待される注意であり、民法上の「善良な管理者の負うべき注意」、あるいはそれよりやや高い程度の注意を意味する。
 求められる注意水準は固定的なものではなく、時代や場所により変化する相対的なものである。監査に対する社会的期待の変化や監査技術の進歩等を反映したものになる。

 正当な注意は、公認会計士の監査機能に関する社会の期待や監査技法の発展を受けて、一般に公正妥当と認められる監査の基準の改訂に応じて変化するものである。

 監査人は、財務諸表の適正性に影響を及ぼすような重要な虚偽表示については、監査の過程においてこれを見逃すことなく監査意見を表明しなければ、正当な注意義務を払ったことにならず、監査責任を問われる。

◆財務諸表利用者が財務諸表監査に期待すること
 財務諸表利用者は財務諸表監査に対し、「正当な注意が払われ、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないように実施され、全体として重要な虚偽の表示が含まれないことについて合理的な保証を得て監査意見が表明されること」を期待している。
 監査人が正当な注意義務を行使せずに監査を行い、財務諸表の適正性に影響を及ぼすような重要な虚偽表示を監査の過程において看過して監査意見を表明した場合、/財務諸表利用者の期待に応えていないことになり、監査責任を問われる。

◆正当な注意と職業的懐疑心の関係
 職業的懐疑心の保持は、「監査のあらゆる局面で経営者が誠実であるかどうかについて予断をもたず、監査証拠を鵜呑みにせず批判的に評価する」という監査人の姿勢を基礎とする。
 監査人が職業的専門家としての正当な注意を払って監査業務を実施する上で懐疑心の保持は不可欠であり、懐疑心は正当な注意の一部を構成するものと考えられる。(2011)

監査人は経営者の誠実性について予断を持ってはならず、質問に対する経営者の回答だけでは十分かつ適切な監査証拠を入手したことにはならない。

■論点整理
二  総論  3 監査の役割 (1)
職業的専門家としての正当な注意を払い、財務諸表の重要な虚偽記載を看過することなく監査を実施することが求められており、このような監査人の責務を強調していくべきである。

三  一般基準  3 監査人の注意義務
重要な虚偽記載が存在する徴候に関して、監査人が適切に対応しなければならないとの趣旨を明らかにするため、/少なくとも、「正当な注意」には職業的懐疑心をもって監査に臨むべきことが含まれることを明確にすることが必要である。

■監査基準の改訂2002
監査人としての責任の遂行の基本は、職業的専門家としての正当な注意を払うことにある。その中で、監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在する虞に常に注意を払うことを求めるとの観点から、職業的懐疑心を保持すべきことを特に強調した。

■不正リスク対応基準
一 1
各国において、職業的専門家としての懐疑心の重要性が再認識されている…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?