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人生を救ってくれたひと

今日の午前、仕事中に弟からの着信。
こういう時は嫌な予感しかしない。

取り込んでいたので出られず、
少しの覚悟を決めてかけなおした。


おじさんがなくなったとの知らせだった。


おじさんは父の姉の旦那さん。
ということは、私と血のつながりはない。
そうだな、たしかにおじさんとは血のつながりはない。
おじさんはそんな人だった。


元来ご陽気で楽しいこと大好きな我が家は
盆正月は親戚一同集まって毎回大宴会をしていた。

長男の家である我が家はその会場になるが、父の姉である
おばさんとおじさんはいつも一番に我が家にやってくる。

基本盆正月しか現れないレアポケモンのような私を見て
「マコちゃん、元気な?」と優しい声で一声かけてくれる。

そして一番年長だからと上座に座らされるのを居心地悪そうにして
ちょっとずづ横に横にずれて、なんとなくすみっこでちびちび飲みながら
真っ赤な顔で周りの話を聞きながらにこにこして
静かにきれいなお酒を飲んでいる。

おじさんはそんな人だった。


今書いてて、残念ながら我が家の家系の人間に
「ちびちび」「しずかに」「きれいな」お酒という人間は
ほかにいないと気付いた。もちろん、わたしも含めてだけどw


やっぱり、おじさんは私たちにとっては稀有な人なのだ。


私はそんなおじさんに人生を救ってもらったと思っている。
毎年実家に帰って顔を見るたび、その時のことを思い出し、
いつも心の中でお礼を言っていた。
おじさんは知らないけど。私はいつもそう思っていた。


小学校2年生の夏、私たちは親戚総出で宮崎に旅行に出かけた。
女性陣は温泉が有名な旅館に泊まり、
男性陣は川辺にあるキャンプ場でキャンプし、飲みあかす。


ここで私は今でも疑問に思っているのだけど
なぜか私はキャンプチームに入れられた。

(妹も母も祖母も温泉旅館なのに・・・。今更だけど問いただしたいw)


ともかく、私は父や弟と共にテントを張り、
水着に着替えて川で従弟たちと泳いでいた。

川には網に入ったスイカが沈められていて後で冷やして食べるらしい。
お父さんたちはみなお酒を飲みながらBBQの準備をしている
夜は花火をするらしい。


何これ超楽しいw

初めての本格的なキャンプにワクワクしたのを今でもよく覚えている。


当時私は8歳。スイミングスクールに週2で通っていて
それなりに泳げた。
足のつかないところでも平気で、狭い川の向こう岸に
簡単に行ける程度には泳げた。

私とひとつ年上の従弟は一緒に向こう岸を行ったり来たり、
思う存分川遊びを楽しんでいた。


そこに4つ年下の弟が来た。弟は当時確か4つ。
いくらなんでも川は無理だ。


「向こうで遊び!こっちきたらいけんよ」



と注意して、川に入ろうとしたのを止めて
テントのほうに戻したのは覚えている。


ただ所詮は私も子供だ。


すぐ弟の存在を忘れて、従弟とまた遊びだした。



その時だった。


テントのほうからガシャガシャガシャガシャ!と音がした。

音にびっくりして、振り返ると、
テントの横で座っていたおじさんが
河原を猛スピードでこちらに向かって走ってきている。


あまりのスピードにびっくりして
おじさんを目で追いかける。


おじさんは猛スピードで川に飛び込み、
私のすぐ横を通り過ぎ、
私から5mほど離れた川の深いところに潜り込んで
何かを掴んだ。


おじさんが掴んだものを見て初めて気がついた。
掴んだのは川から少しだけでていた弟の腕。
おじさんは勢いよく腕を引き上げて弟を抱きしめた。


引き上げられた弟は、一瞬の間の後、火がついたように泣き出した。


弟は私を追いかけたのだろう。
川に入ってきて静かに深みにはまり、
パシャリとも音も立てることなく、
私のほんの5m横で静かに静かに溺れていたのだった。



おねえちゃんはなんで気がつかなかったの?!


大人の誰かが言ったこの一言で、
わたしはとてもとても自分を責めたのを覚えている。

今にしても思えば、
小2に4歳の世話をさせたらあかんでしょうと
言い返すところだが。

私がちゃんと見ていなかったから
危うく弟をしなせるところだった。

このことは私の心に深く残った。

それと同時に、最悪の事態になることを救ってくれた
おじさんに深く深く感謝した。



今でもテントから走ってくるおじさんの姿は
ありありと覚えている。
本当にヒーローのようにかっこよかった。

助けたのがうちの父だった場合。
きっと父はこのことを武勇伝のように語り倒し、
「俺が助けたんだ!」ということを
自慢しまくるであろう


そんな父なのだ・・・(そして私は父に似ている・・・残念)


でもおじさんはそのことを自分からはひとことも口にしない。


だから私は翌日温泉旅館からきた母や祖母に昨日の顛末を話した。
いかにおじさんがかっこよかったか語り倒した。
(父は祖母にちゃんと見てなさい!と案の定怒られていたw)


そこから何年かたっても、おじさんにあって時々思い出しては
弟に「あんたはおじさんに命助けられたんやで」と
何も覚えていない弟に何度も話し、一緒におじさんにお礼を言っていた。

おじさんは何とも優しい顔で笑っていた。



人生にもしもはないけれど。
今でも思う。


あの時、もし私のすぐ横で弟を失っていたら。

私はきっと今の私ではなかっただろう。


気づけなかった自分を責め、
後悔ばかりしている人になったかもしれない。



あの時おじさんは、弟の命はもちろんだけど、
私の人生も救ってくれた。
私は本当にそう思っている。

会うたびにそう思って心の中で感謝していた。


3年前、最後に会った時もきっとそうだったと思う。

まさか3年も会えない世の中になり、
それが最後になるなんて夢にも思わなかったけど。



もう一度くらい、思い出したようにあの時の話を一緒にして
もう一度お礼が言いたかったな。




ありがとう、おじさん。








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