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そして緊急帝王切開へ

病院に着くと、妻を乗せてきた救急車が元の病院に引き返すところだった。

付き添ってくれた医師に挨拶をし、長男を抱っこしたまま病院内に入る。

すでに21時過ぎ。

病院内は薄暗くて静かだ。

受付にいた守衛さんが、どこに行けば良いかを教えてくれた。

エレベーターで上階に上がり、廊下を進む。

ナースステーションで声をかけると、お呼びするまでこちらでお待ちくださいと部屋に案内された。

部屋にはテーブルがいくつかあり、自販機や雑誌などがおいてある談話室のようだった。

長男を抱え、ぽつんと座って待つ。

10分ほど待っただろうか、呼ばれて妻がいる部屋に通された。

ストレッチャーに寝ている妻の周りを何人かの看護師さんが取り囲んで立っている。

一人の女医さんが自己紹介をしたのち、妻の状態とこれから行う処置の説明をした。

「これから帝王切開をします。縦切開でおこないます」

お腹を横に切ると傷口が目立たない。しかし時間がかかる。

縦に切るとすばやく胎児を取り出すことができる。しかし傷口が残るという。

妻は目に涙を浮かべている。

私と長男の顔を見るのはこれで最後かもしれない。そう思ったら涙が出てきたそうだ。

酸素マスクをし、分娩室に運ばれる妻。

手を握り、「しっかりね!」と声を掛けてギリギリまで付き添う。

そういえば、長男を保育園から引き取ってからまだ一度もオムツを替えていないことに気が付いた。

時刻を確認すると21:55。

あと5分で売店が閉まってしまう。

急いで売店に行くと、いつも使っているのとは違うが紙オムツが置いてあり安心した。

それと紙コップも購入。

長男用にペットボトルの麦茶を持参したのだが、慣れていないペットボトルはうまく飲めなかったので、紙コップに移してから飲ませるためだ。

妻にあてがわれた病室は個室。

ここで妻が戻ってくるまで長男と二人で待機をすることになった。

長男のオムツを替え、お茶を飲ませる。

ベッドの上で遊ばせ、飽きたら靴を履かせて病室内を歩きまわらせる。

そうこうしているうちに眠ってしまった長男。

わたしは長男を抱っこしたまま椅子に座り、ウトウトしてしまった。

女医さんが病室に入ってきた。

帝王切開が無事に終了したそうだ。

「おめでとうございます。756gの元気な女の子ですよ。」

おめでとうって事は・・・喜んでいいんだよね?

この女医さんの言葉にどれだけ安心しただろう。

超早産の上、聞かされていたよりも体重が軽い超未熟児。

無事に出産できるのか・・・

出産できたとしても、今後の成長に希望はあるのだろうか・・・

そのような私の不安を吹き飛ばすお祝いの言葉だった。

すぐに妻の実家に連絡をする。

明日、九州から手伝いに来てくれる義母、電話口の向こうで言葉を詰まらせているようだ。

緊急入院からの帝王切開と聞き、どれほど心配だったことか。

私の報告でホッとしたに違いない。

この日は本当に長い一日だった。

転院先の病院に行ったら即入院。

入院したと思ったら再転院。

そして緊急帝王切開。

里帰り出産も叶わず、まだ名前も決まらないうちに生まれた長女。

予期せぬ出産だったけど、すくすくと元気に育ってほしい。

候補として挙げていた名前に、これからの希望を込めた文字を足して命名した。

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