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「直播」という選択肢 メーカーに直接聞いてみた

はじめに

水稲の直播栽培について最近のできごとを書きます。

生産者の方にはちょっと物足りない内容かもしれませんが、お役に立てましたら幸いです。
生産者ではない方には、水稲栽培や直播について知ってもらうきっかけにしていただけたら嬉しいです。

【注意】
こちらの記事では商品(リゾケア)についての詳細はご紹介しません。
詳しく知りたい方は製品ホームページをご覧ください。
https://www.risocare.jp/

水稲の直播とは

一般の方々には馴染みがない言葉かもしれません。
「ちょくは」と読みます。

水稲栽培において、イネが田んぼに来るときの状態の違いで「移植栽培」と「直播栽培」に分けられます。

移植栽培

ビニルハウスなどで苗を育てて田んぼに移植する栽培方法。
イネは「苗」の状態で田んぼにやってきます。

一般的に広く行われている栽培方法です。

移植栽培の特徴は、浸種→播種→育苗→移植の4ステップです。

浸種:種を吸水させて発芽を促す
播種:育苗箱などに土を入れて種まきをする
育苗:ビニルハウスなどで苗を育てる
移植(田植え):ある程度育ったら苗を田んぼに植える

播種機で育苗箱に種をまきます
水を吸った重い育苗箱をハウスに並べる作業は重労働
重い苗を手渡しで田植機に乗せる作業も重労働

直播栽培

田植えをする移植栽培に対して、田んぼに直接種まきをする栽培方法。
イネは「種」の状態で田んぼにやってきます。

耕した田んぼに種をまいて、発芽させて、そのまま収穫まで育てます。

移植栽培で紹介した4つのステップのうち、やるのは「播種」だけです。

「え、絶対こっちが簡単じゃん!」と思いませんか。

ところが、日本の長い長い農業の歴史を通して、わざわざ複雑なステップを踏んで移植栽培が行われているのには、それなりの理由があるのです。

手間のかかる移植栽培が普及した理由

人間や動物の赤ちゃんが弱いのと同じように、
イネも種から発芽して苗になるまでの数週間はとても弱いです。

動物に食べられたり、病気にかかりやすかったり、雑草との競争に負けたり、春先の低温で枯れてしまったり。

それらのリスクを避けるために、いちばんケアが必要な時期を管理された空間で育てて、丈夫な苗になってから田んぼに植える「移植栽培」が普及しました。

さらに田植え機をはじめとした農業機械の進歩もあり、省力で大きい面積を栽培できるようになっていきました。

直播栽培が注目される理由

日本の人口がどんどん増えていた頃は、コメは作るだけ消費される「コメ不足」の時代でした。
育苗と移植の手間をかけても、リスクを避けて安定して収穫できる移植栽培は魅力的だったのです。

それから数十年。
日本の人口は減少の一途をたどり、コメの消費量も年々減少を続けています。
「コメ余り」の時代と言われて久しくなりました。

さらに高齢化と労働力不足の問題、育苗にかかる資材や肥料の価格高騰も加わり、手間をかけてコメを多く収穫するよりも、収穫量を多少犠牲にしても労力とコストを削減できる直播栽培が注目されるようになっています。

私の勝手な直播のイメージ

そんな今の時代に魅力を増す直播栽培。
いまいち普及していないのにはやはり理由があります。

デメリット1:発芽率が悪い・収量が少ない

イネが発芽して苗になるいちばん弱いステージを、危険がいっぱいの田んぼで過ごすのは、リスクが伴います。
発芽が揃わなかったり、動物に食べられてしまったり、移植栽培と比べて2割ほど収穫量が少ないと言われます。

コシヒカリなどの一般的な品種より収量が多い「多収品種」を用いるのもひとつですが、単価は安くなってしまいます。

大規模経営で規模の経済が活かせる場合は収量減を上回るメリットがあっても、中小零細農家にとっては大きな損失です。

デメリット2:専用の播種機が必要

育苗にかかる資材や機械、田植え機が必要なくなっても、代わりに直播用の播種機が必要になります。
田植え機と比べて少額だとしても新たな設備投資が必要になります。

デメリット3:種子の価格が高い

イネの種子をそのまま直播栽培に使うことは難しいとされています。
発芽を良くしたり、動物に食べられにくくしたり、病気を予防したり、さまざまな理由から資材でコーティングされた専用の種子を使用します。

当然、コーティングにはコストがかかっているので、直播栽培と比べて種子の費用が高くなります。

移植栽培では消毒をした種もみをそのまま使う
直播専用の種子(左:リゾケア 右:鉄コーティング種子)

メリット1:育苗・移植のコスト削減

育苗や移植にかかっていた機械や資材、労力が削減できます。
特に重労働を伴う播種と移植の作業を削減できるメリットは大きく、少人数で大きな面積を担っていて一人当たりの負担が大きい場合や、体力に自信のない作業員が多い場合は有力な選択肢になります。

メリット2:作期分散

特に大規模経営の場合、農作業の集中を防ぐために「作期分散」が行われます。

一般的には早生品種から晩生品種まで収穫時期が異なる品種を複数組み合わせて
農作業のピークの時期をずらすことで労働力を最大限に活用する考え方です。

同じ品種でも、直播栽培では、移植栽培より収穫期が1週間から10日程度遅くなります。
移植栽培と直播栽培を組み合わせることで、品種を変えずに作期分散をすることができます。

直播は大規模栽培向き

以上のメリットとデメリットを勘案すると、直播栽培は、大規模経営の場合にはメリットが大きいものの、我が家のような中小零細農家には縁遠い栽培方法だと思っていました。

リゾケアとの出会い

ある日、知人から「リゾケア」という直播用の種子について情報をもらいました。
ついに直播が有力な選択肢になるかもしれない、と。

すでに書いたとおり、直播に対して良いイメージを持っていなかった私は、半信半疑で資料に目を通しました。

なんと。
専用の機械はいらない、発芽率も良い、品種を選ばない。
そこそこ収量もあるらしい。

…気になる。

そこで、問い合わせフォームから気になる質問をぶつけてみることにしたのです。

リゾケアについて聞いてみた

ご連絡をしてすぐに、シンジェンタジャパンの方が直接説明にお越しくださいました。
許可を頂いたものについて内容をご紹介します。

【注意】
お答えいただいた内容は新潟県、コシヒカリでの事例が主です。
リゾケアについて詳しく知りたい方は製品のホームページをご覧ください。
https://www.risocare.jp/

専用播種機について

  • 点播する場合は直播用の播種機を使う
    農協から借りられる場合も

  • 播種機を使わず、ドローンや動力散布機での散布、手撒きも可能

播種量の目安

  • コシヒカリの点播で3kg(乾もみ2kg)/10a

  • 60~80本/m2が目安

購入方法・価格について

  • 農協から購入する

  • 10月に翌年分の注文をする

  • 価格は農協に問い合わせる

最小ロットについて

  • 1品種につき180kg(乾もみ120kg)から

  • コシヒカリなど購入者が多い品種はもっと少量から可能な場合も

移植栽培と比べた収量・品質について

  • 収量
    一般的は移植栽培と比べて1~2割少ない
    ただし移植栽培と同程度に収穫できる場合も
    500~560kg/10aとれた事例もある(おそらくコシヒカリ)  

  • 品質
    年や気象条件で異なる
    出穂期が1週間~10日遅れる影響で、高温期を回避できて品質が向上する場合も
    栽培方法の違い(移植か直播)より、出穂期のタイミングがずれることによる影響が大きい

栽培管理のスケジュールについて

  • 播種は地温が確保できる5月10日以降を推奨

  • 発芽まで1週間から10日程度
    水管理・雑草管理に細心の注意が必要

  • 収穫期は移植栽培と比べて1週間から10日程度遅れる

対応品種について(新潟県内での事例)

  • コシヒカリBL

  • こしいぶき

  • ゆきん子舞

  • にじのきらめき

  • こがねもち

お話を聞いて気になったこと

  • 発芽して苗が安定するまでの管理が難しそう
    逆に考えると、この時期さえ乗り切れれば、あとは移植栽培と同じ

  • 鳥の被害に注意が必要、特にカモとスズメ
    カモもスズメもありふれた野鳥
    彼らを避けて栽培するのは難しいのではないか

  • 地域によっては貝による食害も注意

  • 事例が増えるにつれて、傾向と対策が出てくることを期待したい

【結論】アリなんじゃない?

課題はあるものの、重労働を伴う育苗と移植の作業をカットできるのはやはり大きな魅力です。

大規模経営体向きだと思っていた直播栽培は、我が家のような資金や労働力に乏しい中小零細農家や、小規模にスタートしたい新規就農者こそ取り組むべき栽培方法なのかもしれません。

今年の作付けには間に合いませんでしたが、来年は一部を直播栽培にしたいと考えています。
経過・結果はこちらのnoteでご報告します。

農業技術は日々進歩しています。
情報をアップデートしながら、状況に合うものを柔軟に取り入れていきたいです。

この記事が、水稲の直播栽培について知ったり考えたりしていただくお役に立てましたら幸いです。

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