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CHICHIBU by 笹久保伸

openradio No.165 でご紹介した作品CHICHIBU。全6曲からなるも盛りだくさんの内容であり傑作。またご本人の30作目という節目もあり、方々で話題になっています。詳細は佐藤英輔さんや松山晋也さんといった信頼できるライターによるインタビューを参照していただき、ここでは感想的なことを勝手に綴ります。          

-美しきオルタナティブ-
何よりも珠玉のオリジナルコンポジションの美しさに息をのむ。Gravity-重力からの解放的音空間。楽曲を共にしたfeatuaringされているミュージシャンの音楽性、彼らへ声をかけ、音源を送ったその本人が音楽の中にあって自身の存在を消していることに、徹底したあるリスペクトを感じる。

最大の自由にして誇り高き孤独。アイデアとインスピレーションを具現化するにはどうすればいいのか。演奏者である条件、それを仕事と呼ぶのか生きることの一部と捉えるかはさておき、楽器を奏でる練習であることは明白。

招魂。今回の制作過程はブラジルそしてLA、日本のミュージシャンとスタジオに入ることなく、音源を送り合いできたという。コロナ禍だからこそできた、あるいはこの時勢を好機と捉えタイムリーな結果を生んだ。     インターネット回線を介し音の交差が生まれる。もちろん本人が生きる秩父という土地との交通、対峙あってこそ。ヴィジョンを俯瞰しなおも強烈な自己同一性を共演者に提示し、それに反応した音楽の名手たち。海を隔てた彼らも、それぞれに与えられた地で生き、奏でているという事実。こんなにもシンプルなことを音楽によって突きつけられたようでもある。      ミクロコスモスの音のやりとりを秩父の地、もっといえば武甲山にひっそりと息するマクロコスモスが微笑んでいるようだ。

各曲随所にみられる笹久保伸のヴィジョンは、ある作家が引用していた詩を呼び起こす。

"ぼくはエイブ・リンカーンがニュー・オリンズへとくだったときに、ミシシッピ河がうたうのをきき、その泥だらけの河のおもてが夕陽をうけてすっかり金色にかわるのに眼をうばわれた。

ぼくは、多くの河を知っている。

太古からの、うすほのぐらい多くの河を。

ぼくの魂は、それらのおおくの河のように、底のふかい泉からわきでてきたのだ。"

ーラングストン・ヒューズ「黒人は多くの河のことを語る」より


-祝福された作品-

CDを作るには具体的に制作費が必要となる。このアルバムに関わらずこれまで作ってきた作品は、サポーターからの支援によるものだという。制作過程を共演者、エンジニアだけではなく、サポートする人々と作り上げる、そういった共有方法。今回はCDだけでなくLPとしての重きがあり、その良し悪しを位置付けるレコードジャケットの、極限まで削ぎ取った感は音楽そのものに呼応している。フォント、デッサン、色、ジャケットデザインを担当した鷲尾友公に感服。

作品を生む孤独な時間を現実的には笹久保自身と共有はできないが、制作へのサポートを含め、このアルバムに参加したすべて人々は、そう、ほんとうに恵まれた、恩寵さえあるような人びとだと思う。苦しみ喜びを経て得る、音の精霊たちからの祝福。もちろん作品が出来上がるまでの当事者本人のプレッシャーは想像に難くないが。
コロナ禍における時空間の共有的問いかけを放ち、見事に奏でられたそれは、人々が生きる時間の中に鳴り響く音楽として帰結した。

コンサート、あるいは今までの作品を聴いた者は笹久保のあの驚異的な音の鋭利を知っているはずだ。痛々しいほどの純度。それは今作で濁ることなく、しかし他者の存在によって包容感をもって永遠に歌われるものとなる。

作品自体はいずれクリエイターの手を離れていくだろう。名作という名だけ残し。しかしこの作品からインスパイアされ、新たなアート、あるいは文学etc...が生まれることは間違いない。

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CHICHIBU  2021年発売

1. Cielo People (feat. Sam Gendel)
2. Arorkisne, una cancion de febrero (feat.Joana Queiroz)
3. Luz ambar (feat. Mônica Salmaso)
4. Rioella (feat. Antonio Loureiro)
5. Lilium (feat. marucoporoporo)
6. Chichibu (feat.Frederico Heliodoro)

All Composition by Shin Sasakubo

7月末からは西日本でのツアーを予定とのこと。お近くの方はぜひチェックしてみてください。

7/29 広島:羅秀夢 
7/30 岡山:(完売)
7/31 岡山:蔭凉寺
8/1 兵庫:ひょうご環境体験館
8/3 大阪:音凪
8/4 岐阜:SLOW ROOM

因みにすでに満席となった7/30は岡山の牛窓! 瀬戸内の海を見下ろすオリーブの丘、何度も演奏させていただいた"てれやcafe"のカレーの旨さ、海の静寂、夏の岡山に、行きたいものです。


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