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M子の物語〈序〉

M子は、子どもの頃からドラマに惹かれた。
自分のことが嫌いで堪らないから、架空の世界で自分以外のもの
になることで、自由と解放感を味わい、
この世の生きづらさから逃避することができた。

ドラマは彼女の情熱であり、生きる拠り所だったが、
それは彼女の片思いで、ドラマの世界は彼女を求めていないようだった。
彼女がドラマの世界で生きていく道は閉ざされているかのようで、
彼女はドラマへの愛を封印した。

そうして大人になった彼女は、
仕事をし、結婚をし、出産をし、母になった

神様からお預かりした大切な命と向き合った時、
この魂が生まれる前に決めてきたことを
この人生で本当に体験して欲しいと願った。

貧乏でお金に苦労することがあっても、
社会的名声や地位が得られなくても、自分が信じる道を歩んで欲しい。

親としてできることは限られているけれど、
彼が彼自身になっていくプロセスを邪魔したくない。
物質的に成功することが人生の目的ではないことを伝えたいと、
彼女は思った。

そして、その想いは、彼女自身の生き方を問うことになったのだった。

自分が何のために生まれてきたのかは、まだ分からない。
でも、金融の世界でバリバリ働くことが、魂の喜びでないことは分かる。

そうして、安定した職を手放し、自分の心が動くもの、
やりたいことに耳を澄ますと、
またドラマの世界に、彼女は戻っていた。

「ドラマセラピストになる!」
それは、M子にとって以前登ることを諦めた山だった。
大学院修士と800時間の実践。

9年前はフルタイム会社員をしながら、体力的にも難しく、
ドラマセラピストになっても、なかなか日本で仕事にしていくのは
厳しいと考え、断念したのだった。

でも、40歳になった彼女は、残りの人生を考えていた。
ドラマセラピストになるという山頂にたどり着かなくても、
別にいいじゃないか。
山頂に向かって歩む道のりこそが面白いのだ。
プロセスこそが大切だと、あらゆる偉人が言っている。

そうして、子育てとの両立のため
通信制の大学院に入学したのだったが、
気づけば論文や本を読んでばかりで、実践が伴っていなかった。
修論研究でワークショップを考えていたが、前回ワークショップを
実施したのは7-8年前で、感覚が鈍っている。

腰が重いまま、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬に入ろうとしていた。

そんな時、アーツベースド・ファシリテーター養成講座
なるものの存在を彼女は知った。

こうしてM子のファシリテーターとしての旅が始まる…

(つづく…)

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