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キックしたつもりでなにも蹴ってない

「とある小説のタイトル」とはヘミングウェイの生前未発表短編「何を見ても何かを思い出す」であり、「とあるドラマ」とは日本の女性アイドルグループ・けやき坂46(現:日向坂46)が出演しているドラマ『Re:Mind』を指す。

いまだ私は『Re:Mind』を観ていないが、『Re:Mind』という題は、「何を見ても何かを思い出す」の原題「I Guess Everything Reminds You of Something」からの参照である可能性が高いと勝手に考えている。

私がこのフレーズをよく思い出すのは、このフレーズを並べてみるときに、「何かを見たら、別の何かを連想してしまうよね」という一般に頷ける話のようでそうでない、何か言っていそうで何も言っていない、キックしたつもりでなにも蹴ってない言葉だったのが気に入っていたからだ。

ヘミングウェイ「何を見ても何かを思い出す」という短編においてこのフレーズがどのように登場するのか、簡単にあらわしてみたい。

息子の書いた掌編を読み「昔読んだ小説を思いだした(それほど素晴らしい)」と感想を漏らした語り手に対して、息子が「パパは何を見ても何かを思い出すんじゃないの」と返事をする。物語の最後で、語り手は、息子の部屋の書棚から、昔語り手の読んだ短編を息子が一言一句違わず剽窃していたことを知る。

「何を見ても何かを思い出す」というフレーズは、語り手の息子がついた嘘の象徴として、人間の習性ではなく、息子のついた愚かな嘘を思い出すときの苦々しさとともに、表題にピックアップされていることになる。

以前この掌編を読んだはずなのにその記憶がないのは、読後感のまずさのせいだろう。生前未発表だったのには理由がある。また、作品としては、最後の息子に関する記載が尻切れトンボで、このあたり、もう少し補記されるはずだったろうと予想する。

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