マルセイバターサンドが嫌いと言えない話

マルセイバターサンド・・・それは皆さんもご存じの北海道を代表する銘菓。六花亭さんの売上の実に4割を誇るドル箱コンテンツである。北海道土産に喜ばれるこのマルセイバターサンドについて今日は語っていく。どうぞみなさん白い恋人をほおばりながら最後までお付き合いくださいませ。

マルセイバターサンドと聞くと私は法事の時にお供えされるお菓子というイメージが強い。あのお花が描かれた紙包みをお盆の時期によく家で見たという北海道民も少なくないだろう。そう、私もその一人であり私にとってマルセイバターサンドはお盆の味なのだ。
夏休みも終わりに近づき宿題も溜まっていくお盆時期、蝉の鳴き声と麦茶のコップの氷がカランと溶ける昼下がりに親戚がやってくる。私は親戚の集まりが苦手だ。会えば決まって「おおきくなったねぇ」という挨拶、薄ら笑いを浮かべながら照れくさく笑うしかない私を横に親戚は仏壇の方へ行く。
年の近い親戚の子もいないので親戚が来ると部屋に籠るのが常であるし、お盆の時もそうしている。そして、呼び出されるのだ「お菓子いただいたよ」の号令で。
呼ばれたら行くしかない。抵抗は許されないのだ。そう、お盆の時期の小さな子供にはなす術が無いのだ。呼ばれていくとテーブルの上には綺麗に開けられて畳まれた六花亭の花柄の包み紙、そして、悔しいかな子供心にも少しわくわくしてしまうお菓子の詰め合わせ。そこにはマルセイバターサンド以外にも色々なお菓子があり、私は「大平原」というお菓子が大好きなので率先して狙いに行く。しかし、悲しいかな。六花亭のお菓子の詰め合わせで大平原が入ってるのは多くても2個、ものによっては1個の時もある。そして、先ほど述べた通り六花亭を代表するお菓子は売り上げの4割を誇るドル箱バターサンドなのだ。つまり、お菓子の詰め合わせでもドルサンドが幅を利かせているわけだ。
ここで問題が起こる。「大平原が1個しか入ってない詰め合わせ」は兄弟のいる家にとってはパンドラの箱なのだ。争いの火種になりうる箱だ。もらっておいて言うのも難だが「あんたらも子供いるんだから大平原が1個しか入ってない詰め合わせ持って行ったらケンカになるのわかってるんだから2個入り持ってこいや」って言いたくなる。
じゃんけんだ。1個しかない何かを兄弟で分けるときそれは古より語り継がれる儀式「邪拳」で決められる。勝てばいいが負けた時は大平原が食べられなくなるばかりか「マルセイバターサンドも美味しいじゃない」とマルセイバターサンドの選択肢が登場するわけだ。
ここで問題が発生する。
私は「マルセイバターサンド」が嫌いなのだ。いや、正確には「レーズン」が大嫌いなのだ。意味が分からないのだ。なんなのだ、あの老婆の乳首のような食べ物は!理解できない。いや、ぶどうは大好きなんだよ?乾かす意味がわかんない。ジューシーなものをなぜ干上がせる?なんなの?乾いた風をからますの?あなたを連れてくの?ハニーソースウィートってそんなにレーズンなんて甘くないわ!
取り乱したが、とにかくレーズンが苦手だからそれを使ってるマルセイバターサンドも当然苦手なのだ。結局、大平原でもマルセイバターサンドでもないどら焼きあたりな無難なお菓子に不時着するのである。これがマルセイバターサンドが苦手な北海道民のお盆風景であることをわかっていただきたい。

さて、月日は流れて2021年、私もすっかり大人になりまして、Twitterではおかげさまで全国各地の男性同性愛者の方々と交流することもあり、そしてこのコロナ禍です。各人が住んでいる地域の特産品を交換することでおうち時間を楽しもうじゃないかと思い各地の友人に物々交換を持ちかけたところ、みな「マルセイバターサンドが食べたい」と言うじゃありませんか。
え?マルセイバターサンド好きなの?
率直に申し上げると本当にこれなんですよ。マルセイバターサンドって美味しいの?
そう思い聞いてみるとみな一様に「美味しい」と言う。
幼少期の苦い思い出とともに蘇る記憶・・・そういえば私生まれて一度も実はマルセイバターサンド食べたことない。
それはいかんな。齢34にして食わず嫌いはあかんな。幸運にも私は北海道在住だ。マルセイバターサンドはすぐ手に入る。東京のように関税がかかったアンテナショップにまで行かないと手に入らないような不便なバターサンドではない。こっちは直営店だ。
買ってきた。とうとう買ってきた。一応美味しかった時にもう1個食べたいと思ったら困るから2個買ってきた。さて実食。
数分後、私は「レーズンは嫌い!でも、六花亭のマルセイバターサンドは好き!」ってとなりのトトロのさつきちゃんみたいな台詞を吐くようになっているだろう。そして幼少期から食わず嫌いだったことを悔やみその贖罪を背負い過去の過ちを清算するかの如くマルセイバターサンドを今後貪り食うことになるだろう。そんな予感がしていた。だって、みんなが口を揃えて「マルセイバターサンド美味い」って言うのだから。
私は確信していた。もうマルセイバターサンドが嫌いとは言わない人生を。今後の余生にハッピーライフ!愛を込めて花束を!!!

・・・食べた。私はマルセイバターサンドを食べた。しかし、どうだ?世界は変わったか?戦争が終わり平和になったか!?
変わらない・・・何一つ変わらない・・・レーズンが・・・レーズンが邪魔をする・・・バターとサンドの部分は美味しいんですよ確かに。でもレーズンなの!!!!そもそもレーズンが北海道の名産でもなんでもないのに何でレーズンなの!!!
期待していたの。どこかで変われると信じていたの。・・・でも変われなかった・・・マルセイバターサンドは創業以来何も変わっていない・・・変わらない美味しさを提供してくれている・・・悪いのはこの私だ・・・レーズンが嫌いなこの私なんだぁぁぁぁ!!!!!

目が覚めるとそこはいつもの自分の部屋だった。どのくらい眠っていただろうか。あれから世界はどうなってしまったのか。外の世界を見るのが怖い。窓の外に目をやる、いつもと変わらない街並み。ほっと安心した。私は元の世界に戻ってこれたのだ。
しかし、安心したのもつかの間、その手には食べかけのマルセイバターサンドが握られていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
私は取り乱した。夢じゃなかった。マルセイバターサンドを食べていたのは夢ではなく現実だった。あのレーズンもすべて幻覚ではない。食べたのだ。私はマルセイバターサンドを食べたのだ。
私が・・・マルセイバターサンドを・・・なぜ?・・・
わからない。こんな時綾波レイならどうするの?
「食べればいいと思うよ」
そんな声が聞こえた。残りの半分を食べた。
不味くはない。しかし、絶賛するほど美味しいとも思えない。
美味しかった時のために買っておいたもう1個は母にあげた。

さて、皆さんはマルセイバターサンド好きですか?
私は結局のところ苦手なままです。
「何が嫌いかより、好きなもので語れよ!」という言葉もありますが、ですがここで言っておきたいのはこの日本と言う国ではなぜか「マルセイバターサンドとイクラを嫌いなのはおかしい」という風潮が根付いておりませんか?って話よ。
イクラが嫌いだと言うと「えー!もったいない!」とか「人生の半分損してるー!」というようなこと言われたことありません?
マルセイバターサンドも嫌いだと言うと「えー!もったいない!」とか「人生の半分損してるー!」って言われます。
つまり、人生とはマルセイバターサンドとイクラで出来ているんです。
そういうことを言われたくないから、何故かマルセイバターサンドとイクラが嫌いだということを隠して生きることになるんです。隠れキリシタン状態になるんです。
そんな隠れバターサンディアン状態はもう嫌だ。と思い、世の中に一石を投じるべくこのnoteを書いています。
このnoteが世に出るころ、私は特高警察に捕まってマルセイバターサンド拷問にかけられていることでしょう。
この手記を見たマルセイバターサンドが苦手な皆さん、どうか不安にならないで!!あなたは一人じゃない。苦手な人もきっと周りには存在する!みんな隠して生きているの!そうしないと迫害を受けるから。でも、必ずいる!
マルセイバターサンドが苦手な人を炙り出す方法を教えておきます。そして見つけ出したらいつか我々レジスタンス同盟の力になってください。
いいですか、まず六花亭のお菓子の詰め合わせを用意します。それを人々の目に入るところに置いておくのです。すると、マルセイバターサンドが好きな人は率先してマルセイバターサンドを取っていきます。しかし、マルセイバターサンドが苦手な人はマルセイバターサンド以外のお菓子を躊躇なく選びます。それを見極めるのです!!!!気を付けてください。中には「マルセイバターサンドも好きだけど大平原の方が数が少なく貴重だから大平原の方から狙う」という巧妙なトリックスターも存在します。騙されないで!!そういう人は大平原を先に取りつつ数の多いマルセイバターサンドも一つ取って行きます。
では、幸運を祈ります。

マルセイバターサンドが好きな人に言いたい!!お願い!これ以上私たちを苦しめないで!!いいじゃない!職場で誰かが北海道土産に六花亭持ってきても私たちはマルセイバターサンドを取らないんだから!!いいじゃない!!
なんならマルセイバターサンド以外にも美味しい六花亭のお菓子いっぱいあるよ?
百歳とか雪やこんことか大平原とかも美味しいよ。是非食べてみて。

ちなみにアンケート結果によるとマルセイバターサンドを好きな人は全体の66%にも上ります。すごいねマルセイバターサンド。
ではこの辺で私の手記を終わりにします。
私は次の地へ行き白い恋人が苦手な人を救わなければならない。
そう、この手記を白い恋人片手に読まなかったあなたの元へ・・・

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