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やまとうみの不思議なものがたり 6

終わりのはじまり


いぶきの山でいぶきの笛を吹いてから一年あまりがたちました。
カヨはそのあいだ、とてもいそがしい日々をすごしました。
毎日の仕事と年老いたお父さんやお母さんのびょうきのかんびょうで、
笛を吹くことさえ忘れてしまうほどでした。

そうしているうちに、お父さんが亡くなりました。
おそうしきが終わったあと、
あまりにいそがしい毎日だったので、カヨはとてもつかれていて、
ついウトウトとソファーでうたた寝をしてしまいました。

すると夢の中に、
あの神社の山の上にある大きな鏡のような岩があらわれました。
そして声が聞こえました。

「エメラルドタブレット!」

カヨはびっくりしてパチリ!と目をあけました。

「エメラルドタブレットだって?」

聞いたことがある言葉でしたが、よくわからなくて、
思わずすぐにスマホを出して調べてみました。

「エメラルドタブレットと・・・え?なに?そっくり!」

そのページにはあの岩とそっくりな岩のような絵があって、
岩のひょうめんには文字のようなものが刻まれているようでした。
そしてページの下の方にはその文字の意味が日本語で書いてありました。
カヨは声に出してよんでみました。

「・・・・・下にあるものは上にあるもののごとく、上にあるものは下にあるもののごとく・・・・」

なんだか長くてむずかしい文章でしたが、読み終えたときにカヨは思いました。

「やまとうみの笛はもともとひとつの笛ってことなのかな?」

なんだか2つのいぶきの笛のことを言っているように思えたのです。

「ふたごのような、夫婦のような、うりふたつの2つの笛。
仲良くまじりあっていっしょになって空の笛。」

カヨはもう4年あまりもあの神社の山に行っていないことに気がつきました。

「そうだ、空の笛を吹きに行かなくちゃ!」

カヨが神社の山の上へ行くというと、
お友だちのモモが言いました。

「私もいっしょに行きたい!つれて行ってもらえますか?」
「うれしい、よろこんで!いっしょに行きましょう!」
とカヨは言いました。

今度は電車やバスではなく、モモの車に乗って行くことにしました。

「今日は私、鈴をもってきたんです。」
とモモが言いました。
モモはかんのんさまの舞を舞っています。

「私はおうぎをもって来ました。」
カヨもお能の舞を舞っているのです。

車はスイスイと谷を走りぬけて、あっという間に神社へたどりつきました。

西の神さまをおまいりし、東の神さまをおまいりし、
さいごにまんなかの山をのぼります。

「ゴロゴロしてすべりやすいから気をつけてね。」

カヨはそう言いながら、ひさしぶりなので足もとに気をつけながらゆっくりとのぼりました。
モモのせなかのリュックサックからはときどき鈴の音がかすかに聞こえてきました。

男の神さまと女の神さまと、あいだにある鏡のような岩のあるところへたどりつきました。
石段にすわって少し休けいしながら岩をながめてみると、
大きな鏡のようなその岩は、たしかにコケが一面にはえていてエメラルド色です。

「さあ、では私から。」

カヨはそう言って、岩の方へ向かってうやうやしくおじぎをし、
赤と金で美しい絵がかかれたおうぎをひらいて、
みずうみの方を向き、うたいながら右へ左へと、
まるで鳥とあそぶようにひらひらと星の神さまの舞を舞いました。
そしてまたおうぎを閉じて、次に空の笛を吹きました。

次はモモの番です。
モモは五色の美しいはたがついた鈴を持ち、シャンシャンとならしながら、
まずみずうみの方へ、そして次は岩の方へむかって、まるで星の光のこなをふりかけるようにしずしずと鈴の舞を舞いました。

カヨはすっかり満足して、

「モモさん、今日はほんとうにいっしょに舞ってくださりありがとうございました。」
と言いました。
「カヨさん、こちらこそつれて行ってくださりありがとうございました。」
とモモが言いました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その次の朝、カヨは小学校の子どもたちに絵本を読みに行きました。
もう15年ほど続けているのです。
その日は「たつのこたろう」という絵本を読みました。
それはこんなお話です。

『たつのこたろうは北のみずうみにいる、竜になったおかあさんをさがしにたびに出ます。たろうはちちのかわりにおかあさんの目玉をしゃぶってそだちました。なので竜は目が見えないのでした。たろうはたびをしながら多くのこんなんをこくふくしておかあさんを見つけだし、いっしょに力を合わせてみずうみの水を海にながしてゆたかな大地をつくります。そしてにんげんのすがたにもどったおかあさんと、白い馬にのったアヤとしあわせにくらしました。』

「たろうとアヤ。ふたつの笛みたい。仲良しふたりに子どもが生まれて、また新しいお話がはじまるかも。」カヨはそう思いました。

学校の門を出ようとすると、
後ろから男の先生が小ばしりにやってきてカヨに声をかけました。

「カヨさん!今年一年ありがとうございました!」

カヨはとつぜんで少しびっくりしましたが、

「こちらこそ、ありがとうございます!」

そうこたえました。

もうクリスマスが近いきせつです。
カヨは学校の門を出て、うーんとのびをして言いました。

「今年もたくさん旅をしたなあ。」

冬の朝の明るいお日さまの光が、まるで春のひざしのようにあたたかく、
カヨのからだにふりそそいでいました。












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