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五 やまとうみの笛 空の笛


「やま」と「うみ」

二つのいぶきの笛をもったカヨは、それからもいろんなところへ行って笛を吹きました。

大きな海の海岸で。
ながれる滝のしぶきの前で。
ひこうきに乗って南の島へ行って、森の中でも吹きました。
もちろん、あの神さまがいらっしゃった神社の山の、鏡のような岩の前でも。

そんなことがつづいたあと、またリュウさんがカヨのお寺へ来ました。
その日は新しい年が始まる日で、お祝いにみんなで笛を吹きました。
お祝いが終わったあと、リュウさんは言いました。

「カヨさんにこれをさしあげます。」

見ると、それは白に茶色い土がまざっていて、
美しいマーブルもようのいぶきの笛でした。
よく見ると、くもの中をりゅうがおよいでいるようにも見えます。


「わー!ありがとうございます!うれしい!」

カヨはとてもうれしくて、いぶきの笛をいろんなところでたくさん吹いてきてよかったなあと思いました。

笛を手のひらにのせると、それはズシンと重くてとくべつな感じがしました。

「空(くう)の笛と言います。」

とリュウさんは言いました。

「吹いてみてもいいですか?」

とカヨはききました。

「どうぞ」

カヨは左の手のひらに空の笛をのせ、くちびるをそっと近づけて、
穴の中に息を吹き入れました。

「ピーーー‼︎」

とても力づよい音がなりひびきました。

カヨは「やま」「うみ」「空」の3つの笛をならべてみました。

「空の笛が二つの笛をつないでいるみたい。」
「なんだか、むげん♾️マークのようにも見えるなあ。」

三つの笛はそんなカヨをわらいながら見ているようでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そんなある日、カヨは夢を見ました。

夢の中でカヨはひこうきみたいにうでを横に広げて空をとんでいました。

「ピラミッドみたいなお山が三つある。」

空をとぶカヨの目の下に三つの山が見えています。
二つの山は先がとがっているのですが、まん中の山だけはてっぺんが少し平らになっています。

「あの山にどうやって行こうかな。」

夢の中で、カヨはたびのけいかくを立てているようでした。

朝になって、カヨは目がさめました。
いつものようにスマホを手にとって見ると、お友だちが山に行ったことを書いているのが目に入りました。

「あ!いぶきの山!」

その山は、いぶきの笛と同じ「いぶき」という名の神さまがいらっしゃるという山なのです。

「そうだ!いぶきの山でいぶきの笛を吹かなくちゃ!」

カヨは夢で出てきたてっぺんが平らな山はここだなと思いました。
そしてその山へ行くことにしました。

その山はみずうみの向こう側にあります。
冬にみずうみの西がわの方から山を見ると、雪をかぶってとても美しく見えるのです。

カヨはでんしゃに乗ってみずうみをぐるっとまわって、東がわの駅につき、
そこでバスにのりかえて、いぶきの山をめざしました。

山の道をバスはくねくねのぼって行きます。
とちゅうでたくさんの人が、谷に向かってカメラを立てて写真をとっているのが見えました。

「あれは何をしているんですか?」

とカヨはききました。

「オオワシの写真をとっているんですよ。」

と運転手さんが言いました。

バスにゆられながら、カヨはこの山に伝えられているものがたりを思い出していました。

『むかしむかし、とてもいさましい皇子(おうじ)がいました。
りっぱな剣をもっていました。
国のあちこちで戦って、そのとちをおさめてきました。
ある時、山にわるい神がいると聞き、「もう私はすっかり強くなったからだいじょうぶだ。」と剣ももたずに山へむかいました。
とちゅうで白いイノシシにであったのですが、「たいしたことはない。あとでやっつけてやる。」と山をのぼっていきました。
しかし、そのイノシシはいぶきという名の山の神さまだったのです。
山の神のいかりにふれ皇子はびょうきになってしまい、山をおりましたが、やがてなくなったのでした。』

「皇子はきっと、みんなのしあわせのためにたたかったんだろうな。」

カヨもペンダントになった小さなハートの剣を持っていました。
それは美しい剣にハートがついたものでした。
その剣で悪いものたいじをしたこともありました。
カヨは皇子のきもちがわかる気がしました。

「山の神さまにちゃんとごあいさつしよう。」

もしかりにカヨが皇子だとしたら、今度はしっぱいしてはいけません。
カヨはわすれないように、ちゃんとハートの剣をくびにさげました。

「剣でたたかわなくてもしあわせな世の中はつくれるのかも。」

カヨはそう思いました。

「ここから頂上へは歩いて行ってくださいね。」
頂上近くにバスをとめて、運転手さんは言いました。

頂上までの道には、きれいな小さな花がたくさん咲いていました。
しかし道には大きな石ころがごろごろしていて、気をつけて歩かないと足をいためてしまいそうです。
カヨはゆっくり足もとに気をつけながらあるいていきました。

山の頂上につきました。
そこは本当に夢に見たとおりの平たくて広い野原になっていました。

「広いなあ!あのはしっこの方へ行ってみよう。」

野原の向こうの方へあるいていくと、少しとおくに大きなみずうみが見えました。

「みずうみの西がわから東がわまで来たんだなあ。」

ふと、空を見上げると、ひらひらとちょうちょがとんでいるのが見えました。
羽がうすくすきとおった水色で、羽のふちが茶色いちょうちょでした。

「どこで笛を吹こうかな。」

そう考えながらあるいていると、ほそ長い石の柱がありました。
それは、山で亡くなった人たちのために立てられたものでした。

「こんなうつくしい山だが、一度山の神があらぶれば、人がいのちをなくすこともあるのだ。」

カヨはまるで何かを知っているかのように少しむずかしい古めかしい言い方でそうつぶやきました。
そして、ここで笛を吹こうと決めました。

カヨはていねいにふかぶかとあたまを下げて言いました。

「いぶきの山の神さま、カヨです。今日ははるばるまいりました。
いぶきの笛を吹かせていただきます。よろしくおねがいします。
そして、亡くなられた人びとのたましいがやすらかでありますように。」

いぶきの笛を左の手のひらにのせ、右のゆびでささえて、あなに息をふきこみました。長く長く、ぐるっとからだを一周まわしながら吹きました。
いぶきの山の風にのって、笛の音は山のてっぺんにひびきわたりました。

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カヨは山をおりて、またバスにのりました。

「えきへ行くとちゅうに温泉があります。そこでおりることができますよ。」

運転手さんは言いました。

「おふろであたたまってから帰ろう。私、温泉でおります。」

とカヨは言いました。

「では、1時間後にまたむかえに来ますね。」

と運転手さんが言いました。

カヨはバスをおりて、温泉のあるたてものに行きました。
たてもののちょうど後ろはいぶきの山でした。
山は夕日に赤くそまって、それはそれはきれいでした。



カヨはゆっくり温泉につかり、少し早めにたてものを出て、帰りのバスにのろうとのりばへ行きました。

バスのりばから、夕焼け空のうつくしい畑の方を見ると、
目の前にだえん形の不思議なものが空に浮かんでいました。

「え?!あれは何?」

カヨは目をまん丸にして、もう一度ながめました。
空に浮かんでいるそのだえん形のものはぎんいろで、夕日のオレンジに少しそまって光っています。

「ひょっとしてUFO??」

まわりにはだれもいません。

消えてしまわないかとドキドキしながら、カヨはそのだえん形のUFOのようなものをじっと見つめていました。
すると、

「カヨ、よくやった!」

という声があたまにひびいて、

「○○××△△・・・・・・・・」

記号やら数字やらよくわからないものがカヨのおでこをめざしてとびこんで来ました!

「わ!何?」

カヨはわけがわからないまま、あわてておでこをおさえました。
するとその不思議なUFOのようなものは、スーっとうすくとうめいになって、
あとかたもなく消えてしまいました。














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