都のおんなと村のおんな
ある都におんなの人がいました。
そのおんなは大きく立派なごてんにすんでいました。
肌は白くツヤツヤとして美人で、
高価な宝石や金がちりばめられたごうかな絹の着物も持っていました。
だんなさまはやさしく、子どもやかわいい孫もいて、
まわりの人からしあわせものだと思われていました。
都のずっと南の海の見える村におんなの人がいました。
そのおんなは海のそばの小さくて古いそまつな小屋にすんでいました。
すがたは決して美しいとは言えません。
畑しごとや水しごとで肌は赤黒くあれていて、
いつも粗末な麻や綿の着物をきてひとりでくらしていました。
まわりの人からかわいそうな人だと思われていました。
ある日、都のおんなのだんなさまが病気になりました。
「だんなさまがしんでしまったらどうしよう!」
おんなはとつぜん心配になりました。
寝てもさめても不安で不安でしかたがありません。
おんなはりっぱなごてんやお金や宝石や着物、元気な体をもっていることが
しあわせだと思っていました。
でもそれはだんなさまがくださったものですから、
だんなさまがいなくなると、ぜんぶ消えてなくなってしまうような気がしました。
ある日、おんなの孫が泣いてかえってきました。
おんなは胸がざわざわしました。
「どうしてこんなにむねがざわざわするんだろう?」
「私の胸がざわざわするのは、きっと孫を泣かせた相手のせいだわ。」
おんなはその相手を探し出して怒りをぶつけ、都から追い出しました。
胸がスッとした気がしました。
でもそれはその時だけのことでした。
しばらくすると、また胸がざわざわしました。
おんなはそのあともあちこちでこのようなことをくり返したものですから、
都の人々はだんだん近づかなくなり、おんなはひとりぼっちになってしまいました。
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村のおんなが海のそばの小屋に住みはじめたころ、村人たちは近づいて来ませんでした。
おんなはそれまでもいろんなところで、その赤黒い肌のせいでいじめられてきました。
泥水をかけられたり、石を投げられたりもしました。
けれど決して怒らず憎まずいつもにっこりほほえんで、
畑をたがやし虫も殺さず、できた野菜や米はみんなに配って、
人の喜ぶことをいっしょうけんめいやってきたのでした。
海のそばのその村でもそのようにしているうちに、
村の人々はおんなの小屋へあそびに来るようになり、
いつの間にかおんなのまわりには人がいっぱいあつまるようになりました。
ある日、修行をしているお坊さんが旅のとちゅうに村をおとづれました。
村の浜辺のお地蔵さんに供養のお経をあげると、近くの小さな小屋からおんなが出てきました。
「ありがたいお経をありがとうございます。どうぞ、お礼に召し上がってください。そまつなものですが。」
村人たちとおんなはお坊さんを小屋へ案内し、
おんなは炊き立てのごはんと野菜の入った汁物とつけものをお出ししました。
「ああ、こんな美味しいものをいただいたことがない!」
お坊さんは心のこもったおいしい食事をいただきながら、村人たちやおんなとひとばんじゅう旅の話など楽しく語り合いました。
お坊さんはその心の美しいおんなをひと目で好きになってしまいました。
修行の身でしたが、その村のおんなと一緒にくらしたいと心から思いました。
「私と一緒に都へ行きませんか?」
お坊さんはおんなに言いました。
都の小さな古寺で、お坊さんと村のおんなの祝言がひらかれました。
美しい花嫁いしょうに身をつつんで
恥ずかしそうにお坊さんのよこに座っているおんなは
本当にみちがえるようにかがやいて、
その美しさにお祝いするみんなの心もキラキラかがやくようでした。
おんなはお坊さんといっしょに力を合わせて人のよろこぶことをして、
いつまでもいつまでもしあわせにくらしました。
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