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桃から産まれたキャロルくん

彼氏が買ってくれた桃をひとしきり嗅いでから切った。いい匂いだった。
タネの周りにある透明な汁が綺麗だったので、まずそこだけ舐めて「大当たりでしたよ」とメッセージをした。ジャムっていく。

不思議の国のアリスのモデルは金髪碧眼の少女ではない。黒髪ボブの少女だった。とはいうものの、今日ルイス・キャロルの写真を見た時に「あなたがアリスね」と私は思った。

キャロルはそう言われた時、私に対して「違いますよ、私はドードーです」だとか、「赤薔薇の女王」ですだとか、そういう風に言う権利がある。私をアリスに連なる者として扱った上で、「違いますよ」と話す方が実利を得られる状況にいるから。「私はアリス」と言われない限り「ああ、あなたがアリス」と言ってはならないルールに我々は否応なく巻き込まれている。

私のきらめく昼下がりでは、アリスを花のひとつとして数えることもある。なぜかといえば、私は筆をとってしまったから。

「実存の全てが不思議の国や鏡の国に閉じ込められないようにする」ということを考える。「私はアリス」と宣言されたのであれば話は別なんだけど、私はアリスに宣言をさせるより、キャロルがアリスから「ドードーさん?」と聞かれたときに「いいえ、作者です」のように答えられるような庭を作ってしまったほうがいいんじゃないかと思っている。見ればわかるものってそこまで多くない。桃源郷の顕現にはすべての実存が不可欠だった。


カルペディエム

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