令和4年司法試験行政法再現答案

設問1⑴
 「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは、当該処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害される恐れのある者を指し、不特定多数に帰属する具体的利益を専ら公益に吸収させるに留めず、それが帰属する個々人の個別的利益として保護する趣旨をも法が有するときは、その利益をも含む。EFは処分の名宛人ではないので同条2項を考慮する。
1Fについて
 Fは本件沢沿いに居住し生活用水等として利用する者として、生活環境に係る利益を主張する。
本件許可の根拠となる法10条の2第1項は開発行為を知事の許可事項とし、同条2項が各不許可事由を定めている。そして2項は、災害防止の機能から周辺において災害を発生させるおそれがあること(1号)、水害防止の機能からみて地域の水害を発生させる恐れがあること(2号)、水源涵養の機能から見て水の確保に著しい支障を来すおそれがあること(3号)を不許可事由と定めており、これらの害悪から生じる生活環境悪化がないように同利益を一般的に保護している。
 そして、一般に大規模な土地造成は、地盤の安定を害しこれに伴う災害の恐れを生じさせ、また水源涵養力を低下させる恐れが高くなるから開発許可を行うに際してはこれらの事項を考慮しなければならない。また法に反する開発許可がされた場合には、土砂流出や水害等による被害により人の生命身体が害される恐れがあるし、水源涵養色は自然環境であるため影響を受けやすく一度害されると回復に時間がかかる。このような事情を踏まえると、法に違反して許可処分がされた場合に生じうる災害等の被害により害される生活環境に係る利益は個別的利益として保護されているといえる。よって開発許可により生活環境に係る利益を害される恐れのある範囲に居住する者には「法律上の利益」が認められる。
 Fは本件開発区域の外縁から200メートル下流の本件沢沿いに居住している。そして過去にFが居住する場所は、集中豪雨の際、土砂等の流失や浸水被害を受けており、土砂災害水害等の影響を受けやすい場所と言える。そうするとFは生活環境に係る利益を害される恐れのある範囲に居住する者といえ、法律上の利益を有する。よってFには原告適格が認められ。
2Eについて
 Eは本件開発区域に山林を所有する者として、財産権に係る利益を主張する。
法10条の2第1項及び根拠法令である規則4条2号は開発許可申請に当たって権利を有すもの相当数の同意を得た書類を添付すべき旨定めているから、開発行為により害される財産権に一定の配慮をしている。もっとも規則4条2号は全員の同意ではなく、相当数の同意しか求めていないこと、及び規則1-1-①が相当数の同意を3分の2と定めているのは、そもそも法は権利者を個別的主体として見ているのではなく、ある種の全体的なものと捉えていることを確認した趣旨ともいえる。そして、財産権侵害は生命身体と異なり回復も可能である。そうすると、開発行為により財産権を入り著しく害される恐れのある者に限り法律上の利益を有すると考える。
 Eが開発区域に有している土地は全体の2パーセント相当の部分に過ぎず、その場所に建物を所有している等の事情もないから、財産権を著しく害されるとは言い難い。よってEには原告適格が認められない。
設問1⑵
 本件開発行為に関する工事完了後でも、なお回復すべき法律上の利益がFにあるか(行訴法9条1項括弧書き)。昭和59年判決が訴えの利益を否定した理由は、①建築確認は当該建築行為を適法に行える旨確認するだけであること②建築確認の不存在が、その後の除却命令等の要件となっていないことの2点である。
 開発許可についてみると、法10条の2第1項が開発行為を知事の許可事項としており、開発許可によって当該開発行為を適法に行える旨確認するという点で昭和59年判決と類似する。もっとも法10条の3は前条第1項の規定に反した者・不正な手段により開発許可を得た者に対して監督処分を発令できる旨定めているところ、開発許可処分が取り消されれば当該開発行為は許可なしで行われたことになるから、「前条1項の規定に反して」という要件に合致することになり、この点で昭和59年判決と異なる。そして、本件でAが不正な手段で許可を得たとの事情はないから、Aに対する監督処分のためには開発許可を取り消す必要がある。
 以上より、本件ではFに取消訴訟の訴えの利益が認められる。
設問2

Fは、本件ではEの同意書がないまま開発許可がされているところ、これは規則4条2号,許可基準第1-1-①の3分の2要件に反している。そして、許可基準は裁量処分である開発許可処分についての裁量基準であり、ウエブサイトで公開されているものであるから、信頼保護平等原則との関係で、合理的事情がない限り異なる取扱いは裁量の逸脱濫用となる。本件では合理的事情無く許可基準と異なる取扱いをしており、裁量逸脱濫用がある。
 これに対してB県は次のように反論する。開発許可に裁量が認められる理由は、開発区域における災害・水害・水源涵養等は自然環境である以上地域によって様々であり、それこそ北南で環境は大きく異なるから、地域の実情をよく知る知事に裁量を与え、これらの弊害防止と開発行為の有用性との調和を適切に図ることを目的としたためである。そして許可基準1-1-①が権利者の3分の2の同意を要求したのは、開発行為に係る区域は通常広範に及びその範囲内に複数の権利者が存在することが想定されるため、これらの者との合理的な調和を図ったものである。なお全員の同意を要求しないのは申請者に過度の負担が生じ開発行為を委縮することを避けるためである。以上を踏まえると、3分の2要件は合理性を有するが、全ての開発行為で開発区域中に複数の権利者が存在するとは限らず、その場合にまで3分の2要件を要求すると、事実上権利者の同意要件を満たすことができなくなる。そして、本件のように権利者が一人の場合には、頭数要件は意味をなさず、権利者の有する所有地の面積等を考慮するなどしなければ、開発行為の弊害と有用性の適切な調和は図れない。そうすると、許可基準に定めのない所有地面積等を考慮することは裁量の範囲内と言える。

Fは、本件認定が取消されるべきとすれば、本件開発行為は「法令等に抵触しない」(基準1-1-②)のであり、そうすると本件は裁量基準に適合しているのに合理的事情無く開発許可をしていないということになり、裁量の逸脱濫用がある。本件認定はCによって本件計画の阻止を意図してなされており、法適用の平等原則に反していると主張する。
 これに対しBは次のように反論する。本件条例は、本件申請の前に水道資源保護を目的に制定されており、Aの開発行為だけを直接狙い撃ちして制定されたわけではない。そして、確かにCが本件計画の阻止を意図していたとしても、本件計画によりCの水道資源が枯渇するおそれがありそれを解消するための認定であって、「水道資源を保護するため」(条例6条1項)の要件に合致するし、それがそもそもの条例の目的であるのだから(条例1条)、本件認定は違法ではない。
3 
 Fとしては、Aによる本件貯水池によりFの生活用水に不足が生じ、「必要な水量を確保するため必要があるとき」に当たるのに、特に措置を講じないで許可しており、許可基準第4-1に反していると主張する。
 これに対してBは、Fが主張する容量の確保は技術的に難しく、実現には費用が掛かりすぎるところ、過度な負担を申請者に課すとなると、有用な開発行為が委縮され阻害されるから、このような技術的費用的事情を考慮して「適切な措置」を判断することも裁量の範囲内であると反論する。


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