令和4年司法試験倒産法再現答案

第1問
設問1⑴
 債権②は、Cが「破産者(A)」に対して有する「財産上の請求権」であって、CAは従来から原材料の継続的取引を行ってきていたから、債権②は「手続開始前の原因に基づいて生じた」債権と言える。よって債権②は「破産債権」(2条5項)である。
 破産債権は手続内行使しかできないのが原則である(100条)が、実体上の相殺への合理的期待を保護すべく、一定の場合には手続外での相殺を認められている(67条~)。破産債権者であるBは手続開始当時Aに債務を負担していたものの(67条1項参照)、債権②は、手続開始後である令和3年11月1日にBがAから譲受けたものであり「手続開始後の他人の破産債権を取得したとき」(72条1項1号)に当たり、相殺禁止となる。
 本件では、債権②は、Bのグループ会社であるCから譲受けてたものでありBCに一定の一体性があるため相殺への期待があったとも思える。もっとも、判例上、再生手続に関する事案ではあるが、親会社を共通にする子会社間での三者間相殺について相殺権を否定しており、本件は単なるグループ間という点で判例の事案より、より会社間の一体性が低い。また本件ではABC間において三者間の相殺を可能にする旨の事前の合意があったわけでもない。以上を踏まえると、本件は相殺への合理的期待があったとは言い難い。よって72条1項1号により相殺はできない。
設問1⑵
 委託保証による求償権の場合、その発生原因は保証契約締結にあるところ、BA保証契約は令和3年3月1日にされているから、手続開始前に原因があるといえる。よって委託保証の求償権は破産債権に当たる。
 Bが求償権を取得したのは、11月1日の弁済後であるところ、これはAによる手続開始申立てがあった10月15日の後であるから、「申立があった後に破産債権を取得した場合」に当たる。BはAと継続的取引をする関係にあるものとして、Aが手続申立を行ったことを知っていたと言え「取得当時申立てがあったことを知っていた」と言える(72条1項4号)。
 4号の場合72条2項による例外の可能性がある。そして、委託保証の場合、保証契約締結の当時から弁済をすれば求償権が生じることが明確であり(民459条1項)、この時点で保証人は相殺への期待を有しているといえる。そうするとこの場合の期待は直接具体的なものと評価でき「前の原因」(72条2項2号)に当たる。よってBによる相殺は認められる。
設問1(3)
 無委託保証の場合、その求償権の発生原因は事務管理としての弁済時にあるとも思え、本件でそれは手続開始後の11月1日であるため破産債権に当たらないとも思える。もっとも「前の原因」とは主たる発生原因が前であれば足りると考えるべきであり、期限付き債権・条件付き債権も破産債権となることとの均衡を採る必要がある。そして無委託保証による場合でも弁済すれば求償権が発生すること自体は法定されている(民462条)。そうすると無委託保証の場合でもその主たる発生原因は保証契約締結時ということができ、本件では3月1日である。よって破産債権に当たる。
 72条1項1号は、他人の破産債権を取得することで破産者の関与しないところで相殺適状が生じ優先的に扱われる債権が生じる点で他の破産債権者との平等に反し、相殺への合理的期待を認め難いため、相殺を禁止する趣旨である。無委託保証による求償権の場合、それは自己の債権であり「他人の破産債権」を取得したわけではないから同条を直接適用できない。ただ、破産者たる主債務者の関与しないところで保証契約が締結され求償権が生じ、その結果相殺適状が生じ優先的に扱われる債権が生じる点で前述の72条1項1号の趣旨が妥当する。よってこの場合の相殺は72条1項1号類推により禁止される。
設問2⑴
 Eは破産財団について抵当権を有しており別除権者である(2条9項、10項)。またEが有する本件貸金債権は破産者(A)に対して有する財産上の請求権であり令和2年3月1日に生じているから「前の原因」であり破産債権に当たる。よってEは別除権付破産債権者の地位にある。
 この場合、不足額責任主義(108条1項)が適用され、それを配当面でも基礎づける為に法は打ち切り主義を採用している(198条3項)。その趣旨は、別除権者が二重の利益を得ることを防止する点にある。別除権者が最後配当を受けるには、別除権では担保されない範囲を証明する必要があるところ、Eが本件貸金債権につき配当の満足をうけるためには、別除権を放棄して、担保されなくなったことを証明するべきである。この場合、放棄の意思表示は、管理処分権を有している管財人X
に対してする(78条1項)
設問2⑵
 「破産債権者に対する配当額」(201条1項)の基礎となるのは何かと言う問題と言える。本件貸金債権の残額は8,000万であったところ、Eは本件抵当権の実行により計5000万円の弁済を受けている。ゆえに形式的に考えれば、残額3000万円が配当の基礎となる破産債権額とも思える。もっとも、104条1項、5項の趣旨は全部義務者の集積による債権回収期待が倒産手続時にこそ発揮すべきことから開始時現存額主義を定めたところにある。そして2項の趣旨は、債権の二重行使により他の債権者が害されることを防止する点にある。そして本件は、開始時現存額である8000万全額を消滅するに足りる弁済がされていない場面である。そうすると、Eはなお8000万全額で手続に参加出来るはずであるとともに、Dらは求償権をもって手続に参加し得ない。以上より、依然としてEへの配当基礎となる債権額は8000万である。

第2問
設問1
 手続開始の要件(33条1項)は、適法な申立て及び棄却事由が無いことである。
「破産手続開始の原因となる事実の生じる恐れがあるとき」(21条1項)とは、支払い不能等が生じるおそれを意味する(破15条1項)。そして支払不能とは破2条11項所定の状態を指し、支払い能力は財産労務信用から判断する。「恐れ」があるときで足りるのは、迅速に手続を始めなければ再生が手遅れとなってしまう可能性があり、早期の申立てを認める必要があるためである。本件では、令和4年4月末日の時点で、メインバンクであるC信金への弁済の見込みが立たない状況であるところ、Cがメインバンクであることからすると5月末日に至れば「一般的」な債務弁済不能状態に陥るものと言える。そうすると4月の時点で、Aは支払い不能となる恐れがあるといえ、「破産手続開始の原因となる事実の生じる恐れがあるとき」に当たる。また、Aは支店の敷地建物を処分して得られた資金を負債の返済に充てるなどしており、支店の敷地建物がラーメンの製造販売をするAにとって重要なはずの財産であることを踏まえると、「事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済できないとき」にも当たると評価できる。よって適法な申立てがあるといえる
1①の場合
 Aは費用を予納しており(25条1号)、不当な目的があるとも言えない(同条4号)。現在Cが既に破産手続を申し立てているが、手続が係属しているわけではないので3号にも当たらない。
 では3号に当たるか。同号が「明らかな場合」と定めるのは、可能な限り再生債務者の事業継続を目指し再建を図る趣旨であるから、その該当性は厳格に判断される。ただ、本件では、Aが事業を継続しても収益は低額にとどまると見込まれており、売却した方が弁済額がより高額となることが見込まれる。そしてCはAに売却を勧めており、の事業継続を望んでおらず、再生手続に賛成するメリットがない。現にCは破産手続を申し立てている。そうすると3号を厳格に解するとしても、なお本件ではCの反対により再生計画成立の見込みがないことが明らかと評価できる。よって手続開始決定できない。
2②の場合
 こちらも3号該当性が問題となる。確かにHへの事業譲渡代金額では税金滞納分を全額支払うことができないから、彼ら債権者が反対する可能性がある。しかし、滞納国税についてはJとの交渉の結果延滞税につき分納の合意ができる見込みがある。また事業譲渡代金についても、今後のAの工夫によって提示額が増額される見込みは十分にある。そうすると、より多くの資金により確実に債権を弁済できる可能性が残っており、そうなれば債権者らが再生計画に反対する理由はなくなる。よってこの場合、再生計画成立見込みがないことが明らかとは言えないため、手続開始決定できる。
設問2 
 本件債務に係るDの債権は、手続開始前の原因に基づき生じた財産上の請求権であり再生債権にあたり(84条1項)、原則として手続外弁済ができない(85条1項)そうすると手続外での弁済充当を定める本件条項に基づく充当は85条1項に抵触する可能性がある。
 まず、再生手続では商事留置権は直接別除権として扱われ(53条1項)、手続外で留置可能である(同条2項)。一方破産手続では、商事留置権は特別の先取特権とみなされ(破66条1項)、その特別先取特権が別除権として扱われる(破66条1項)。この趣旨は、円滑な破産手続のため商事留置権の留置的効力を失わせる一方で、留置権の担保的効力を確保し別除権者の保護も図る点にある。そして破産法には185条1項により法定方法以外での処分権能が認めらうるが、民再法に同様の規定はない。以上を踏まえると、再生手続上、商事留置権に基づいて優先弁済を認めることが直ちに適法ということは出来ない。
 もっとも、商事留置権に優先弁済効はないが、留置し続けるという効力は別除権として発揮し続けられる。そうすると、再生債務者の債権者は、これを債務者の引き当て財産として期待できない。また民再法は不足額責任主義を定めており、別除権者は別除権で担保されない債権についてのみ手続に参加できる。以上を踏まえると、取立金を法定手続によらず弁済充当に充てられる旨の合意は、別除権に付随する合意として有効であると考える。本件合意は、手形等について法廷手続によらず処分した後その取得金で弁済に充当できる旨定めたものであり、上記別除権に付随する合意として有効である。よってDは本件取立金を本件債務の弁済に充当できる。

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