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コロナのせいで音楽が聞けなくなった

コロナのせいで音楽が聞けなくなった。聞こうと思ったことはたくさんあるけど、再生ボタンをどうしてもクリックできなくて、結局聞くのをやめてしまう。



この1年、音楽は暗い話が多かった。どこに行ってもライブは中止、アーティストは闘っていて、リリースはどんどん延期になった。

自分も何かしたいと思ってわずかばかりの寄付もしたけど、その程度のことでなんとかなるような世界じゃなかった。好きな曲を聴くたびに「これはライブで聴けないんだな」「次行けるのはいつなのかな」みたいなことばかり思ってしまった。そのうち「こんなに皆が困っているのに、お前は何もやらないのか?」「自分にできることはやったのか?」「音楽が好きだ好きだと言っておいて、いざというときは結局なにもしないのか?」と言われているような気持ちになった。できるだけ何も考えないように音楽を聴いた。そのうち、聴くことすらもやめてしまった。



音楽を聴くと、その曲にまつわることも思い出す。「みんなでよくこの曲を歌ったな」とか「このライブは本当に楽しかったな」とか。

小さいころに聴いた曲は小さいころを思い出すし、人にすすめられた曲はその人のことを思い出す。私は音楽のそういうところが好きだったけど、音楽にくっつく思い出は幸せなものとは限らない。

コロナが広がっているときに聴いた曲は、コロナのことを思い出させた。コロナ禍で聴いた音楽には、聴けば聴くほどしんどい思い出がついていった。

朝から音楽を聴くのはやめた。よっぽど好きな曲以外は、再生しないようにした。音楽の話をするのを避けた。生活からどんどん音楽を締め出した。


私は音楽を聴きたかった。聴いて、楽しい気持ちになりたかった。「うわー、いい曲だな!」とか思いたかった。でも、それができなかった。いまでもできない。「最近は何を聴くんですか?」と人に聞かれるのが怖い。新曲が出たというニュースを見ると「聴きたい」よりも「聴かなくちゃ」と思ってしまう。「もう前のようには音楽を聴いてないんです!」って本当は大声で言いたかった。でも、そう言われたときの相手の気持ちがわかるから、意地でも言いたくなかった。「最近は音楽を聴かない」という言葉が、音楽好きにとってどんなに寂しいものかはよくわかる。


だからせめて、言い訳だけさせてください。私は音楽が好き。そして、いまの私は音楽を聴けない。でも、それでだめなんですか? この世界はたいていの場合、たくさんの音楽を聴いて、流行りのアーティストの名前をたくさん言えて、たくさんライブに行っていることを「音楽が好き」と呼んでいる。けれど「これをやらないと好きとは言えない」なんていうルールがそもそもおかしいんじゃない? 私はこの1年間、音楽をほとんど聴けなかった。けれど、私は私なりのやり方で、音楽を好きだったと思う。どれくらいアーティストに詳しいかとか、どれくらい音楽に時間をかけているかとか、そういうもので「好き」を計るやり方は確かにある。でも、聴かなくちゃ、考えなくちゃ、追いつかなくちゃ「好き」と言ってはいけないなんて、そんなことはないんじゃないの? だから、いまの私は音楽を聴かない、でも音楽のことが好き。確かに私は、音楽がいまも大好きです。


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