センパイ病

 「迷子さん、これはどうしたらいいですか?」と後輩が事務仕事のやり方を聞いてきた。

 事務の仕事はずいぶん前にその後輩にすべて引き継いだわたしだ。もちろん、やり方がわからないならいつでも聞いてと「その時」には言ったし、実際に教えてもいたんだけど、もう何年も経ってしまった後でこれを言われるのはキツイのだ。その仕事のやり方を忘れたってことじゃなくて、やり方って時を経るごとに少しずつ変わっていくじゃない?処理する道具が変わったり、ルールが変わったりするじゃない?さすがに、変わってしまったあとの処理の仕方なんてわたしはわからない。

 だけど、引き継いだ手前、面倒を見なきゃというヘンテコな「センパイ意識」がわたしにはあって、聞かれる度に「あっこれわかんないな」と思っても「わからない」とは言えずに、まず後輩に見えないところでこっそりそのやり方について調べて、理解してから後輩にレクチャーしていた。そういうことがだんだんあたりまえになってしまって、結果後輩は「わからないことはいつでも迷子さんに聞けば教えてもらえる。だってもともと迷子さんがやってた仕事だし」という思い込みを強くしてしまったのだ。まるで昨日までわたしがその仕事をやっていたみたいな意識であれこれと質問してくる。

 これは徹底的に困った。

 わたしはもう、他人に仕事を教える余裕などない。自分の仕事で手一杯なときに、他人の仕事のことまで調べる暇もない。だけど「それはわからない」という、その一言が言えない。いいかげん、面倒見すぎじゃないか?電化製品なら保証期間は1年間だぞ。なぜ何年も何年も、わたしは後輩のサポートセンターで居続けるのか。

 結局、わたしは優等生気取りなのだろうなと思った。「できません」「わかりません」を言うことを良しとしないのだ。「そんなことは自分で調べなさい」と突き放すことができないほど気が弱いこともやっかいだ。

 これからずっとこういうことが続くのはしんどい。結局わたしは後輩を甘やかしすぎたのだ。だからといって、今日からいきなり突き放すことはできない。ならどうするか?

 今わたしは「バカを演じる」「すっとぼける」という2つのスキルを身に着けるのに必死である。「それはわたしも知らないよ」というのではなく「わっかんないな~」というテンションに持っていく特訓中だ。後輩よ、どうかこんなバカなセンパイを頼ることなく、自ら考え、悩むことで仕事をものにしていってほしい。



 

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