「ソエ」を知ろう!
はじめに
定期的に見かける「ソエ」という怪我。
レース後の敗因として「ソエ気味だったから」というコメントがよくありますが、ソエ気味でもレースは完走できるっぽいです。
しかしダビスタではとても重い怪我として扱われているように感じますし、ソエに泣かされた人も多いのではないでしょうか。
そうであっても自分を含めほとんどの人は「なんか足が痛いんだろうな」という程度でしか認識していないでしょうし、ゲームをする上ではそれで問題ないと思います。
でもやっぱり正体のわからないバッドステータスで練りに練った配合の馬をご破産にされるのは悔しいですよね。
ソエという怪我は軽いのか重いのか。そんなところからわかりません。
というわけで今回は「ソエ」についてみていきましょう。
(導入が下手ですね)
「ソエ」とは
「ソエ」とは正式名称を「管骨骨膜炎」といいます。
ムコウゾエ・ムコウズネと呼ばれることもあります。
ちなみに「管骨骨膜炎」には英語名が沢山ありますが、そのうちの1つである"Sore shin"を日本人が初めて聞いたときに、"Sore" を「ソエ」と聞き取ったことが由来という説が有力だそうです。
「管骨骨膜炎」は名前の通り「炎症」です。
JRAのサイトを見てみると、以下のような説明が載っています。
ここで大切なのは
・若馬に発症する
・強い調教で発症する
・前面(スネ側)に発症する
という3点です。
これがソエのメカニズムに大きく関わっています。
ソエのメカニズム
ソエのメカニズムというのは未だに完全には解明されていないそうです。
現在では「2つの発症時点」が考えられているので、それについてみていきます。
「管骨」とは
まずソエを理解するためには「管骨」について知ることが重要です。
管骨とは、正式名称を「第三中手骨」といいます。
これは馬の前脚のスネにある一番長い骨であり、下の図の緑丸部分にあります。
細かい話にはなりますが、後脚のスネにある同様の骨は「第三中足骨」といい、この骨も「管骨」と呼ぶため、こちらで発症した骨膜炎も「管骨骨膜炎」といいます。
しかしほとんどの場合管骨骨膜炎は前脚で発症するため、一般的には「ソエ(管骨骨膜炎)=第三中手骨の炎症」という認識がなされています。
この記事でも管骨=第三中手骨という体で管骨を取り扱っていきます。
また管骨は名前の通り管状になっていて下図のように真ん中に穴が空いています。
ソエの原因
ソエが発症する原因は走行時の管骨の動きにあります。
上の図のように、馬が走る中で前脚が着地し蹴り上げる時に管骨はしなります。
「骨がしなる」という現象は想像することが難しいと思いますが、鉛筆の両端を持ってグッとしならせることを想像してみてください。
鉛筆をしならせて戻す、これを繰り返すと鉛筆は折れないにしても、芯や周りの木のちょうど真ん中がボロボロになることが想像できると思います。
この「しなり」を繰り返すことが管骨に起きているのです。
すると管骨で一番しなりの大きい中央部では、骨の構成組織に微小な亀裂が入り、(小さな)骨折を起こしたりします。
この骨折によって骨膜は炎症を起こすと考えられています。
これが1つ目の「ソエの発症時点」です。
ただし、このメカニズムには続きがあります。
もちろん馬は走る動物なので、ある程度の自然治癒力は備えています。
その自然治癒では、亀裂が入った骨組織を取り除いてそこに新しい骨組織を生成することで治癒します。
しかし調教やレースなどで人為的に強い負荷がかかり続けると、大量の亀裂が入りそれが取り除かれる一方で、新しい骨組織の生成が間に合いません。
骨組織の生成が間に合わないことで、管骨には上図の「→」のように穴が空いてします。
穴が空いていると管骨は走ることに耐えきれなくなってしまうので、穴以外の部分を補強することで全体的な強度を高めようとします。
その結果下の図のように、管骨の内外に骨が新しく生成され、太くなります。
管骨が外側に飛び出ることで骨膜を圧迫し、骨膜は炎症を起こします。
これが2つ目の「ソエの発症時点」です。
このようにソエの大元の原因は骨がしなることにありますが、骨はまだ未成熟で柔らかい時にしかしなりません。
そのため、ソエは2歳前後までの若馬に多くみられ、管骨が完全に化骨(硬化)した大人の馬にはほとんどみられません。
再発について
ソエは病態そのものよりも、再発が多いことを特に問題視されています。
その原因は炎症が治っても、2つ目の発症時点までいった馬においては飛び出た骨はそのままだからです。
なのでソエの治療においては飛び出た骨にどう対処するか、いかに骨を飛び出させないかが重要となります。
ソエの治療
ソエはあくまで炎症なので、基本的には患部の冷却や、抗生剤の投与が行われます。
また調教の強度を下げることも悪化を避ける効果的な方法です。
軽症の場合はこれだけで済んでしまうこともあります。
しかし、重症の場合にはそれだけでは治せません。
そこで用いられる治療法は大きく3つあります。
①焼烙療法
まず、これは全くの無意味だということが判明しています。
しかしこの焼烙は20世紀までソエに一番効く治療法であるとされていました。
患部を焼きごてなどで焼くことで炎症を抑えることを期待する手法ですが、実際にその効果を出すには足の内部、患部の付近まで焼かないと効果がないことが研究によってわかりました。
過去には足に焼きごての跡が見られる馬も多かったそうですが、それがただ馬を痛めつけただけだったと判明しました。
そうした中イギリスでは、このような事実が判明したにも関わらず焼烙療法を行なった獣医師が刑法で罰されることにもなったそうです。
②ボーンスクレイビング
足を切開し、管骨の表面を削る方法です。
これによって管骨の再生・化骨(硬化)を促進し、骨膜炎の治療と予防を期待しています。
この治療法は飛び出た部分を直接削り切るわけではありませんが、これ以上大きくなることを防ぐため、致命的なほど大きくなっていない限りとても有効な治療法とされています。
実際に軽いソエが発症された後にボーンスクレイビングを行い、今後ソエが発症しないようにするというのはよく行われているそうです。
③ショックウェーブ
これはショックウェーブ、つまり衝撃波を患部に与える方法です。
人間でも尿管結石などを砕く際に利用されているそうです。
衝撃を炎症を起こしている管骨に与えることで、
・鎮痛効果
・炎症を抑える効果
・血流・代謝促進効果
・化骨促進効果
・血管新生効果
などが確認されているそうです。
おそらくこれが1番負担が少なく、効果も期待できる治療法だと思われます。
おわりに
今回はソエについて詳しく見てきました。
軽症と重症の差がかなり大きい病気であることがわかって頂けたと思います。
軽症であれば1週間〜長くても3ヶ月程度で治りますし、軽い治療+ボーンスクレイビングなどで、多くの場合再発のリスクから逃れることができます。
一方重症だと飛び出た骨はそのままなのでいつまでも再発のリスクに囚われ続けることになってしまいます。
そのため早期発見がとても大切です。
若馬のソエ発症のニュースは頻繁に聞かれます。
しかし、もしも推し馬や愛馬がなってしまったとしてもその進行度次第では「大したことのない怪我」といえるでしょう。
余談
ソエには「素質馬しかならない」「治った後にはより足が速くなる」などの言い伝えがあり、昔は若馬がソエになると厩舎で赤飯を炊くこともあったそうです。
しかしメカニズムを考えると、ソエになるかどうかは調教強度や骨の柔らかさに左右されていますし、治ったからといって足が速くなる要素は全くないことがわかります。
このような迷信や焼烙療法など、過去から現在にかけて大きく認識が変わった病気なので、正しい認識を持つことが特に大事だと感じました。
参考
吉原豊彦(2009)「競走馬の骨組織と骨疾患 その5」, 『BTCニュース』, 75, pp. 6-12.
及川正明(2009)「競走馬の第三中手 (足) 骨炎」, 『日本家畜臨床学会誌』, 32(1), pp. 22-26.
日本中央競馬会(2014)「優駿6月号」中央競馬ピーアール・センター, pp. 134
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