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「地方消滅」論が警告した日本の未来は回避可能か? ~経済資本の豊かな都市と自然資本の豊かな地方による広域連携のポテンシャル~

元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める日本創生会議が2014年に提出した、いわゆる「増田レポート」は、日本全土に大きな衝撃を与えた。レポートでは、国内の約半数の市町村が「消滅可能性都市」であるとし、その一覧が示された。この「増田レポート」には少なからずの批判もあるが、レポート発行と同年の12月には 「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定され、「地方創生」という考え方に大きな影響を与えるに至った点は、評価に値する。

日本政府は現在、“日本版SDGs”とも言える『地域循環共生圏』という新しい概念を打ち出し、推進している。これは、SDGsやパリ協定といったパラダイムシフトが世界規模で進む中、地球人類が目指す姿を日本ならではの「循環」「共生」という言葉に託して取りまとめたものであり、自身としては、この日本オリジナリティのある 『地域循環共生圏』 のベストプラクティス創出こそが、日本発の世界貢献として胸を張れるものになることを信じている。
2000年以降の地方自治を振り返り、自分なりに3つのフェーズに分類しつつ、考察してみる。

【地方分権トライアルフェーズ(2000年~)】 
日本ならではの社会アプローチの原型はこの時期に誕生

地方分権とは、中央政府に権力が集中している状態を指す中央集権の対義語で、国が持つ政治面での決定権や財源を地方自治体に移し、「地方の課題は地方が対応する」という体制を構築することである。これにより、地方自治体はその地域固有の規則を作ることができるようになり、地域に寄り添った行政サービスを実現することが可能となる。

2000年4月に地方分権一括法が施行され、この法律により、(実態はともかくとして法律上は)国と地方の関係は「上下・主従関係」から「対等・協力関係」に転換されることになった。
https://seijiyama.jp/article/news/nws20160914.html

実はこのフェーズのときに、日本ならではの社会アプローチの原型が誕生している。

2007年6月に閣議決定された「21世紀環境立国戦略」では、「低炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」という持続可能な社会形成に向けた日本独自の3つのアプローチが提唱され、これらの取り組みを統合的に進めていくこととしている。そして、この3つの社会アプローチの推進のためには、技術イノベーションと社会イノベーションを同時に進めることが重要であり、「地域づくり、人づくり、仕組みづくり」が必要であることが強調された。「まち・ひと・しごと」概念の原型である。
http://www.env.go.jp/guide/info/21c_ens/index.html

これらの基本的な考え方が、翌年2008年の「環境未来都市」構想に活かされている。ここから、後の「SDGs未来都市」の原型となる「環境モデル都市」(地域資源を最大限に活用し、低炭素化と持続的発展を両立する都市:2008年~)、「環境未来都市」(環境や高齢化など人類共通の課題に対応し、環境、社会、経済の三つの価値を創造することで「誰もが暮らしたいまち」「誰もが活力のあるまち」の実現を目指し取り組む都市:2011年~)の選定がスタートし、各自治体ベースで活動が進められていった。つまり、「環境モデル都市」、「環境未来都市」の制度にSDGsの手法を取り入れ、更に発展させたものが、現在の「SDGs未来都市」ということになる。SDGs誕生の7年も前にこのような構想を掲げていたことは、日本人として誇らしく思う。
https://future-city.go.jp/about/futurecity/

【危機対応フェーズ(2014年~)】 
日本全土に衝撃が走った「地方消滅」論と地方創生活動のスタート

冒頭でも触れたが、2014年に増田寛也氏を座長とする日本創生会議が提出したレポートは、日本全土に大きな衝撃を与えた。本レポートでは、国内の(当時の)約半数となる896の市町村が「消滅可能性都市」であるとし、その一覧が示された。
https://leader.jp-unite.com/jinkougenshou-2/

レポートが指摘する通り、(高齢化も進行するとはいえ)少子化の影響によって日本の人口が将来的に減少していくことは周知の事実である。2050年の日本の人口は、9700万人、そして2100年には約4960万人へと急減し、これは明治時代と同水準である。

「増田レポート」には少なからずの批判もあるが、「地方の消滅」とは何を意味しているのか、そもそもの「地方」とは、「自治体」とは何なのか、といった、日本がこれから直面する未来に対して検討すべき根本的な論点を多分に含んだ、貴重なきっかけになったと言える。現に、このレポートが発行された同年の12月には 「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定され、人口急減・超高齢化という大きな課題に対して政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会の創生を目指すことが掲げられた。このレポートは、「地方創生」という考え方に大きな影響を与えるに至った点で、評価に値する。
https://www.jt-tsushin.jp/article/casestudy_machi-hito-shigoto_sosei/

【世界連動フェーズ(2018年~)】 
世界共通言語SDGsの名の下での取り組みの活発化

2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画では、SDGsやパリ協定といった世界を巻き込む国際的な潮流や複雑化する環境・社会・経済の課題を踏まえて複数の課題を統合的に解決するという考え方から、『地域循環共生圏』という概念が提唱される。

『地域循環共生圏』とは、各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら(一極集中型ではなく)自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方である。ここでは、「脱炭素社会」「循環経済」「分散型社会」という3つのキーワードが打ち出されている。10年前の構想との共通点・相違点を分析してみるのも面白いかもしれない。(なお、前述の「SDGs未来都市」も、2018年よりスタートしている。)
http://chiikijunkan.env.go.jp/

環境省・総合環境政策統括官 中井徳太郎氏のコメントからは、本計画の『地域循環共生圏』という概念に込められた、日本らしさの徹底追求との意図が伝わってくる。
https://www.amita-oshiete.jp/column/entry/015086.php

この、自立分散型を志向する一方、経済資本の豊かな都市が地方を支え自然資本の豊かな地方が都市を支えるという、広域連携による「循環」「共生」という捉え方にこそ、日本らしさを感じ、強く共感する。日本が課題先進国から課題“解決”先進国へと発展しうる可能性を、ここに感じる。

コロナ禍を受けて現在は、とりわけインバウンド依存の地方創生戦略を掲げていた地域は、混沌としている状況のように見受けられる。そもそもコロナ前から、過剰なインバウンド依存による、自然環境や地域住民への弊害が発生していた(サンゴ礁ツアーでのシュノーケル・フィンによる、観光資源でもあるサンゴ自体の損傷/大勢の観光客が押し寄せることでの、地域住民の公共交通機関アクセスへの支障、など)。

地域を「宇宙船地球号」の縮図として捉え、『SDGsウェディングケーキモデル』の三層構造と照らして考えてみると、「地域」とは、人が線を引いて定めた単なる行政区域のみに縛られず、「自然資本を基盤とする社会・経済区域(=生活区域)」を、生活者一人一人がどのように捉えるか、という個別的かつ広域的な視野も大変重要だと思う。

防災対策の文脈でよく使用される、自助・公助・共助の「共助」を広義に捉えて、どこと「共」に「助け合い」のパイプを構築していくか、という言葉に置き換えられるかもしれない。

コロナ禍の今こそ本質に向き合い、自身の生活区域はどうあるべきか、どの地域と、そして誰とつながり合うことで、関わる人々の幸せの最大化をどのように創出できるのか、インバウンドのみに頼らない地方創生・地域活性化のあり方とは、などなどについて、一人一人が “自分ゴト” として考えてみて欲しい。

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