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人口減少に伴う日本のGDP減少は年間約8,500億円!日本が進むべき道とは?  ~『MICE Innovation for Community Empowerment(地域の 地域による 地域のための MICE)』が切り拓く未来の可能性~

2020年より世界中でまん延し続けるコロナ禍が、一向に立ち去らない。第6波が漸くピークアウトを見せてはいるものの、これまでも世界に名だたる製薬企業各社によるワクチン開発の進行とコロナウィルスの変異スピードとのイタチごっこが続いている。「収束」という言葉を待ち遠しく思う時期もあったが、そもそもこの言葉自体が適切ではなく、インフルエンザと同じように人間社会と「共存」し続けていくのだろう、と最近では思うようになっている。
一方、コロナ禍以前からの人類共有の深刻課題として、気候危機や生物多様性といったサステナビリティに関する課題が挙げられる。近年では、グリーン・リカバリー、グレートリセット、リ・ジェネレーションなど、サステナビリティに関連する様々な用語も浮上してきている(余談だが、用語の背景にあるコンテキストへの理解が人によってバラバラだと強く感じている・・・ このようだと、合意形成上の大きな壁となってしまう・・・)。
それに加え、日本国内においては2つの深刻な課題を抱えている。1つは、少子高齢化の進行と人口減少、もう1つは、国際競争力の低下である。前者は量的観点、後者は質的観点からの課題とも言えよう。
日本が直面するこれらの深刻な重要課題に対して、私たちはこれからどのように立ち向かっていけば良いのか。その一案について、考えてみたい。

​日本が頭を悩ます2つの深刻な重要課題

昨年5月、本noteプラットフォーム上に、サステナビリティ、地方創生、MICEに関する3本の投稿を行った。その内容を前提土台として、思考の整理を進めてみようと思う。
https://note.com/maidomatsudesu

まずは現状確認から。
日本政府による5年毎の調査では、日本の人口は2010年の12,806万人(実績値)をピークに下降線を辿り、直近の2020年は12,571万人(推計値)、8年後の2030年は11,913万人、そして2055年に初めて1億人を割る(9,744万人)見込となっている。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/html/gaiyou/s1_1.html

定住人口1人当り年間消費額は約130万円と言われているため、国内人口の減少に伴うGDPインパクトについて大まかな試算をしてみると、2020年と2030年との比較では、(12,571万-11,913万)×130万=8兆5,540億円という巨大な金額ギャップがはじき出される。つまり、この10年間の人口とGDPの減少を年平均ベースで見ると、65.8万人/8,554億円となる。量的観点からは、この経済インパクトが、日本が頭を悩ます深刻な重要課題の一つ目である。

もう一点目の国際競争力については、スイスのIMD(国際経営開発研究所)が発表する「世界競争力年鑑」と、WEF(世界経済フォーラム)が発表する「国際競争力レポート」が有名である。ここではIMDの「世界競争力年鑑」について見てみると、下記の図表2からも、日本の長期的な下落トレンドが非常に顕著である。また、64カ国・地域を対象とする2021年版の日本の総合順位は31位と中位であるが(※この順位自体にも不安はあるが)、4大分類(「経済状況」「政府効率性」「ビジネス効率性」「インフラ」)の中の「ビジネス効率性」(48位)、さらにその中の小分類「取り組み・価値観」(55位)「経営プラクティス」(62位)には本当に危機感を覚える。
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20211007.html

1年前のサステナビリティに関する投稿にて、「外部不経済」の「内部化」、すなわち、これまで長らく「トレード・off」の関係性であり続けた「環境・社会」と「経済」の「トレード・on」化が加速していることに触れた。日本全体が、まさにこうした世界全体のパラダイム転換と向き合った上で価値観・経営プラクティスを転換し、イノベーション創出力を高めていくことが急務であると言える。

解決策としての日本の観光インバウンド戦略とその課題

一点目の人口減少については、元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める日本創生会議が2014年に提出した、いわゆる「増田レポート」(当時の国内の約半数となる896の市町村が「消滅可能性都市」であるとし、その一覧を示したもの)が日本全土に大きな衝撃を与えた。レポート発行と同年の12月には「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定され、そこから地方創生活動が全国各地で展開されていった。
地方創生活動にも色々とあるが、その中で私たち生活者の立場からもわかりやすいものとして、ふるさと納税制度が挙げられる。この制度は、税収の減少に伴い「十分な行政サービスができない」など過疎化に悩む地方対策として2008年にスタートしたもので、日本政府が地方創生活動に注力し始めた2015年以降の伸びが際立っている。
https://furu-sato.com/magazine/9192/

このふるさと納税制度に関しては、指摘される課題の1つとして、国内の自治体同志で限られたパイを奪い合っている構図、というものがある。それに対して、観光インバウンドを高めることで地方創生を進めていこう、という別の切り口もある。これは、国内での限られたパイの奪い合いではなく、成長力ある海外からの外貨を日本国内に呼び込もうという取り組みである。言い換えると、日本の魅力・価値について海外の人々に共感してもらい、移動コストも先方負担で日本にまで足を運んでもらおう、というものである。

観光立国に向けた日本の政策は2003年に遡る。当時の小泉純一郎首相が「観光立国宣言」を行い、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」というビジョンが掲げられた。その後、2008年に観光庁が設置され、宣言から10年後の2013年には「観光」が国の課題として位置づけられた。同年には当時の安倍晋三首相を主宰とする全閣僚による観光立国推進閣僚会議が立ち上がった。そして「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」を毎年策定して政府一丸となって取り組むようになった。その結果、訪日外国人客数は右肩上がりに増加を続け、2012年の835万人に対してコロナ禍直前の2019年には3,188万人にまで達した。
https://honichi.com/news/2019/04/16/kankouxnihon/

但し、インバウンド増加は良いことばかりでもない。勿論すべての観光スポットに当てはまるわけではないが、一部の人気観光スポットでは、観光地に過度な観光客が押し寄せるオーバーツーリズム(観光公害)が発生しており、地域住民の生活及び自然環境、そして景観に対して負の影響を与える状況となっている。観光立国ビジョンの「訪れて良し」については一定の評価がある一方、「住んでよし」への課題が指摘される所以である。
https://myethicalchoice.com/journal/sustainable/overtourism/

2020年以降はコロナ禍により訪日人数は低迷し、この問題は影を潜めているが、観光庁の目標は従来目標からの変更はない。つまり、訪日外国人客数および消費金額の2019年の実績(3,188万人/4.8兆円)に対して、2030年には6,000万人/15兆円(対2019年比約2倍/約3倍)に伸ばそうとしている。これは、量的拡大と付加価値化による質的伸張の両取りプランである。
※ちなみに、観光インバウンドには、いわゆるB2C観光(一般観光)とB2B観光(MICE)があるが、この目標は両方を含んだ数値である(2019年実績ベースでは約96%を一般観光が占める)。

この目標が予定通り達成されると仮定すると、2019年に対する2030年のGDP増加は(15兆-4.8兆)=10.2兆円となり、国内人口減少に伴う10年間でのGDP減少8兆5540億円をインバウンドのみでカバーできることになる。しかしこのことは、2019年を起点として考えた場合、当時のオーバーツーリズムを抱えた状態から、さらに毎年、日本全体で年間280万人ずつ訪日者を増加させ続けていくことを意味する。コロナ禍以降、にわかに持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)が声高に叫ばれるようになってきているが、その実効性について注視していく必要がある。
これに対し、インバウンド全体に占める割合は非常に小さいものの、(私自身が従事している)MICEが果たす役割・貢献についてスポットライトを当ててみたい。この点については1年前の投稿でも触れたところであるが、そこからさらに一歩先に思考を進めてみることとする。
https://note.com/maidomatsudesu/n/nbb65078e2238

MICE × “スローイノベーション” が切り拓く未来の可能性

MICEは、一般的な観光以上に大きな経済波及効果をもたらす。MICE来訪外国人は、滞在日数が長い、家族同伴率が高い、消費金額が高い、といった特徴があり、消費額は一般旅行者の約2倍(一般観光の外国人単価は約15万円、それに対してMICEは約30万円)と言われている。
また、MICEは、国内外から訪れた多くの人達が、同じ日時に同じ会場や近隣の宿泊施設に滞在するため、その動きを予測・コントロールしやすい(管理容易性)という一面もある。つまり、地域負荷への配慮を比較的行いやすい、と言える。
そして何よりも、(先の投稿でも触れたが)MICEの場自体が、国内外の多様な人達が集い、目的をもってコミュニケーションが行われることから、「両利きの経営」で言うところの「知の探索」機会としての本質的価値を内包する。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/070200077/

言い換えると、開催地域の立場から都市運営を「両利きの経営」に倣い実践しようとする際には、MICEの開催を、自分たちの暮らす地域に「イノベーションを呼び込む機会」として捉えることができる。まさこの点が重要なポイントで、日本が頭を悩ます深刻な重要課題の二点目(国際競争力・イノベーション創出力)とも直結する。サステナビリティを軸とするパラダイム転換を踏まえた地方創生SDGs活動との親和性が高いこととも重ね合わせると、地域の(中長期的な)ありたい姿及び現状の社会課題起点からのサステナビリティテーマを掲げ、地域住民も主体側に立ち、行政やMICE事業者などとの連携により誘致・開催に積極的に関与することで(マーケティング・プロモーション活動への共同参画)、地域住民もウェルカムな、そしてポジティブで計画的な地域レガシーを生み出すMICE活用の可能性が拓ける。
このチャレンジを『MICE Innovation for Community Empowerment(地域の 地域による 地域のための MICE)』と名付けることとする。
ここで掲げるイノベーションは、“スロー”という価値観を前提とする。近年、渋谷区を皮切りに、横浜市、名古屋市、京都市、広島市などで展開が広がる『つなげる30人』プロジェクトによる “スローイノベーション” アプローチがまさにそのお手本である。
https://www.slowinnovation.jp/

“スローイノベーション” には、①Wider ②Deeper ③Longer という3原則があり、私の立場からは下記のように理解している。

① Wider
ステークホルダーの捉え方を、従来よりもズームアウトして幅広く捉える。MICEの場合、従来のMICE関係者に限らない新たな参画を想定する。これは、「両利きの経営」でいう「探索」領域に通じ、この新たな参画が斬新であればあるほど「探索」性は高まる。
② Deeper
心理的安全性を大前提として、人と人とのつながりの質を高めることで対話を深める。MICEの場合、従来は縦割り業務によりここから先はサプライヤーの仕事、というように割り切っていた領域にも関心を持ち共有し合い協議することで、より良いMICEの実現を目指す。これは、「両利きの経営」でいう「深化」領域に通じ、日本がこれまでも得意としてきたいわゆる“擦り合せ”に当たる。
③ Longer
短期思考ではなく長期思考を前提とする。短期成果にとらわれ落とし処を探るようなことではなく、長期的な「地域」のありたい姿をバックキャスト/ムーンショット思考で描き、現状とのギャップを “大まかに” 可視化・共有化する。長期的な目標ゴールの可視化を “大まかに” することで、そのギャップを埋めるためのアイデアが、諸制約に縛られることなく自由な発想から次々と創出されることを想定する。

上記の①と②の両立については、最近よく耳にする「ダイバーシティ&インクルージョン」と同義とも言える。一般に、広げようとすると深められず、深めようとすると広げられない。この“トレード・off”の関係性である2軸に、③Longerという3軸目を設定することで、“トレード・on”化の可能性を見出すことができる。
この3原則を、急がず慌てず、時間をかけて着実に取り進める先に、短期思考ではたどり着けないようなアウトカム・インパクトを創出できると考える。このことは、急がば回れ、と言う言葉や、自身の座右の銘である「積小為大」(小さな努力の積み重ねが、やがて大きな収穫や発展に結びつく。小事をおろそかにして、大事をなすことはできない by江戸時代後期の農政改革者、二宮金次郎)にも通じる。スピード重視、アジャイル、と何かとせわしない昨今の風潮下であるからこそ、この価値観の示す意義は大きいと考える。

イノベーションの切り口からも、見てみたい。イノベーションという言葉を、「成果」としてのイノベーションと「プロセス」としてのイノベーションと捉えると(※参照:「成果」=「イノベーション」、「プロセス」=「イノベーション活動」 by Oslo Manual第4版)、“スローイノベーション” は後者に該当する。先行き不透明で正しい答えが誰にもわからないVUCA時代(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)においては、一つ一つの成果を追い求めるよりも、新たな「探索」活動が次々と生み出され続ける「仕組み」、すなわちプロセスイノベーションこそが重要なのではないかと思う。

「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」
(If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.)
これは、有名なアフリカの諺である。
多様性あるメンバーが(Wider)、共通の志を抱き(「地域」という共通項)、互いを尊重し合って各強みを引き出し合い連携することで(Deeper)、遠く(Longer=「地域」の長期的にありたい姿)に向かって前進し続ける。まさに、この挑戦を、MICE業界の中から、取り組んでいきたいと思う。

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