あいのり男の罪
8人で「書く日、書くとき、書く場所で」という共同マガジンをやっています。今回は「始まりと途中と終わりの一文をが決まった文」 を書きました。
書き始めは「『あいのり』かよ」、途中に入れるのは「膝と膝は偶然にはあたらないと思う」、書き終わりは「あぁ、またやってしまった」です。
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「あいのり」かよ!
と、何度も私に思わせてきたのが彼だ。
「人を成長させるのは旅と恋」なんて、恥ずかしげもなく明言していて、旅関係の会社を立ち上げちゃうほど旅が大好きで、本人からも「楽しけりゃなんでもOKっしょ!」という自由な空気が溢れ出している。
なんだか、笑顔で自分のニックネームの書かれたダンボールを持って道路脇に立ち、新メンバーとしてあのピンクのラブワゴンに迎え入れられる姿が、ぴったりくる男なのだ。
ラブワゴンに乗り込み、そこで既存メンバーからあいのりに参加した理由を聞かれたなら、
「東京で社長として、一心不乱に働いてたんだけど・・・なんかある時、全然インプットが足りないなって気付いて。仕事のためにも人生のためにも、世界中のいろんなものや、いろんな人に出会って、もっと色々感じたいなって。」
などと、きっとカッコつけるわけでもなく、大真面目な顔して、サラッと言うに違いない。
その最中、ぽーっとした様子で彼の話を聞くあるメンバーの女性(24)の表情がカットインして、あとで別室でスタッフに「正直、◯◯(彼のニックネーム)、カッコいいなって思いました。」とか報告するんだ。
ほんと、あいのりかよ!
そんな彼とは、共通の友人が誘ってくれた、男女数人が集まる飲み会で出会った。
初めて会った時、私は彼をうらやましいと思った。
自分のやりたいこと、好きなことがイマイチよく分からないという、いかにもゆとり世代らしいコンプレックスをアラサーになった今でも抱えている私にしてみれば、大好きなことを仕事にして生きている彼は、とても輝いて見えた。
キャラが立っていて、見た目もさわやかで快活な彼は、いつでもみんなの輪の真ん中にいた。
きっとラブワゴンでもすぐに馴染んで、誰にも違和感を抱かせず自然とリーダーシップも取れちゃったりするんだろう。
私は割と、スクールヒエラルキーの頂点で生きてきたような男性には苦手意識を抱くことが多いのだけど、彼からは初対面の相手に対する緊張感や、生まれ持っての優しさのようなものが感じられて、スクールヒエラルキーの頂点でずっと生きてきたからって、みんながみんな自信満々で、選民意識が強いわけじゃないよね、と、自分の偏見を戒めた。
話せば話すほど出てくる彼の人間くささに、気付けば「この人とは仲良くなれそうだ」と感じるようになっていた。
まあ要は、イケイケな感じの肩書きやルックスを持ちながらも親しみやすいというギャップに、「なんかかわいいな」と思っちゃったわけだ。
さて、事件が起こったのは、その男女複数人での飲み会の3回目が開催された時だ。
場所は三軒茶屋の雰囲気のいい居酒屋さん。
ごちゃごちゃした雰囲気が、逆に居心地よく、テーブルはせまく向かいの人との席が近い作りになっていた。
膝と膝は、偶然にはあたらないと思う、というのが私の持論なのですが。
白状すると、この飲み会開始後20分後くらいから、彼と私の膝はふれあいっぱなしだったのである。
素知らぬ顔でみんなの話題に相槌を打ちながら、時々意味ありげに、目が合う。
こうなってくると、逆にもう相手の方を見れなくなってくるもんだから困ってしまう。
これは・・・なんぼなんぼでも
さすがに、いくらなんでも
そういうことですよね・・・・????
というほぼ確信に近い疑念を持ったまま、その会はお開きに。
みんなの流れに合わせて、駅に向かう最中、ここでこっそり個人LINEなんか来ちゃって、後でみんなに隠れて、2人だけでもう一回集合・・・なんて、流れになっちゃうんじゃないの!?
なんて妄想を膨らませつつ、ポケットの中でこっそり握りしめたスマホが震えるのを、今か今かと待っていた私の耳に飛び込んできたのは
「俺、これからこいつと別の飲み会に合流するからー!!じゃっ!」
という、彼の快活な声であった。
酔っぱらいらしく、「こいつ」と呼ばれた男の友人の肩に腕まで回している。
ズコーーーー!!!
その時の私の心に効果音をつけるなら、これしかない。
高まったもんは、その日のうちになんとかしてくれないと困るよ!と憤ってみたり、こうして結論を急ぎすぎるのが私の悪い癖かも、と凹んでみたりしながら家に帰り、スマホをじっと見つめてみても、彼からのLINEはその後も、一向に来ず。
この一件から数日が経ち、私は自分から彼にLINEを送ることになる。
そのときの私の頭の中といえば、こんな感じだった。
「あれ、私、彼のことこんなに気になってたっけ??
あの日からずっと、彼のことばっかり考えちゃってんじゃん・・・
こうやって1人で悶々としてるのが、結局良くないんじゃないかな。
ここは自分の気持ちに正直に、彼に連絡してみよう!!」
そして送ったLINEがこちらです。
3時間経って、既読がついた。
そのまま1時間、返事が来ない。
・・・終わった。
これは終わっただろ。
読み返せば読み返すほど気になってくる、「やっほー」というダサすぎるあいさつ。
なんだよ「やっほー」って。相手は遠くの山かなんかか。
こんな感じで自分の気持ちに訳の分からない正当化をして、勢いで行動してしまって勝手に事故るの、人生で何回目・・・??
えっ、けどじゃあ、あの小一時間以上もあった膝スキンシップはなんやったん!?
モテる人たちが無意識レベルで発動しちゃうなにかですか???そんなん許さない!!!
・・・とにかく、あいのり男に翻弄され、勝手に盛り上がっていたのはこちらだったらしい。
恥ずかしい。
今すぐ穴があったら入りたいし、滝があったら打たれたいし、タイムマシンがあれば飛び乗って、LINEを送信する前に戻りたい。
あぁ、またやってしまった。
※この文章はフィクションです。
すっっっっっごいうれしい!